2006 Fiscal Year Annual Research Report
スウェーデンにおける「教育的スロイド」の成立過程に関する実証的研究
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17530563
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
横山 悦生 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 助教授 (40210629)
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Keywords | 教育的スロイド / モデルシリーズ / スウェーデン / オットー・サロモン |
Research Abstract |
今年度は2つの論文を執筆した。論文1「オットー・サロモンのスロイド教育システムのテーゼ」では、スウェーデンのスロイド教育を確立したことで知られるオットー・サロモンのスロイド教育システムに関する主張の特徴を解明することを目的とした。具体的には、彼が機会あるごとに繰り返し指し示したスロイド教育システムの要点を簡潔にまとめた文章(これを「テーゼ」とした)の中から、その発展の時期を画したと思われる三つをとりあげて紹介し、そこで彼が展開し強調したスロイド教育の諸要素の特質を分析し、スロイド教育が発展していった経過と背景などをスウェーデンの近代的教育制度の発展との関連で解明することを試みた。明らかになったことは主に以下の点である。 第一に、サロモンにおいては、彼がこの事業に着手したかなり早い時期--少なくとも「モデル集成」が構想された時期には,スロイド教育システムの思想の「萌芽」というべき骨格が形成されていたとみなされることである。 第二に、そのわずか数年後に「モデルシリーズI」の形成と相まって、スロイド教育システムの理論的な枠組みは飛躍的に強化されたことが注目された。筆者はこれを「サロモンにおけるスロイド教育システムの形成の段階」と特徴づけた。それは、「萌芽」の段階の理論を精緻化し、部分的には発展・変更したものであったが、全体としての基本的な枠組みは変更されることなく、一貫していたことが注目される。 第三に、「モデルシリーズII」「モデルシリーズIII」への変更・発展と相まって、サロモンにおけるスロイド教育システムの理論は、「形成」の段階から「完成」の段階に到達したとみなされた。それは、「形成の段階」への部分的な変化を含むものであるが、基本的な枠組みを変更するものではなかった、といえる。 論文2「オットー・サロモンによるスロイドのモデルシリーズの形成と発展」では、以下のことを解明した。オットー・サロモンのモデルシリーズは、最初は当時のスロイド学校の教材を集成して作成した「モデル集成I」(1876年)の段階から、それらに順次性を与えた段階である「モデル集成II」(1880年)に発展した。その後、モデルの数が50種類に限定されるようになり、その中での順次性が考慮されて「モデルシリーズI」が1882年に公表された。1880年代後半からサロモンが作業過程を調査分析し、「練習」を基本単位として「モデルシリーズII」を作り上げていったこれは1888年に公表された。この段階でモデルと「練習」とが結合されるようになった。その後、40種類のモデルに削減する「簡略化された基礎シリーズ」が作成されたが、さらに1902年には社会の工業化の動向も反映させた「モデルシリーズIII」が編成された。このときには、モデルだけではなく、生徒が図面を読み取ることから製作に取り組むことができるように生徒用テキストが編集された。ここには、モデルのみで教える方法からモデルと図面とを組み合わせて教える方法への転換があった。
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Research Products
(3 results)