2006 Fiscal Year Annual Research Report
浮遊性有孔虫殻の二次石灰化・溶解を考慮した北西太平洋域古水温・古塩分復元の精密化
Project/Area Number |
17540428
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Research Institution | HOKKAIDO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
入野 智久 北海道大学, 大学院地球環境科学研究院, 助手 (70332476)
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Keywords | 炭酸塩 / 溶解 / 浮遊性有孔虫 / Globigerinodes sacculifer / 殻重量 / 酸素炭素安定同位体比 / 古海洋 / プロクシ |
Research Abstract |
海洋表層で生産される浮遊性有孔虫の炭酸カルシウム殻は、死後水柱を沈降し海底堆積物中に埋積されるまでの間に、溶解と二次石灰の沈着が起こると考えられている。そのため、過去に堆積した堆積物中に含まれる浮遊性有孔虫殻の溶解程度をみつもることで、過去の海洋における炭酸塩溶解量およびその原因となった海洋炭酸系の変動が推定できる。しかしながら、浮遊性有孔虫殻の溶解程度をその生きていたときからの重量の減少によって見積もろうとするときにはいくつかの問題がある。一つ目は溶解・二次石灰化が沈降・堆積過程のどこで主に起こるか、二つ目は二次石灰化の程度がどのくらいか、ということである。これらが不明なままでは、殻の炭酸カルシウムに記録されると信じられている海洋の炭素・酸素同位体比も、どの水深で記録されたものかが分からないため、古水温・古塩分ブロクシ記録の正確度にも深刻な影響がある。本研究では、海洋表層に死骸で浮遊していたもの・セディメントトラップで回収された水柱を沈降中のもの・表層堆積物の3通りの試料から浮遊性有孔虫Globigerinoides sacculiferの完全個体を50-70個ずつ集め、そのサイズ・重量・酸素炭素安定同位体比を一個体ずつについて分析することを通して、浮遊性有孔虫殻の重量変化過程を明らかにするとともに、過去の溶解程度の変動とその同位体比への影響を検討した。その結果、G.sacは、海洋表層付近で成長し、水深400mまでの間に配偶子形成カルサイトをつけて重量が20%増加した後、死んで水柱を沈降する間は僅かに溶解が起こるが二次石灰化は起こらず、堆積物表層で溶解し、その後埋没してから二次石灰化が起こる、というプロセスとなることが分かった。堆積物表層での溶解程度(死んだ直後の重量からの重量減少)は、現在の各水深における海水のカルサイト飽和度とよく一致している。しかしながら二次石灰化程度は様々で、系統的な変化を示さなかった。また二次石灰化程度に応じて、殻に残された酸素同位体比は低温・高塩分を反映して大きくなっていた。G.sacの殻は、溶解が進む際には殻サイズは変化せずに殻が薄くなっていくので、ある程度溶解が進むと破片化する。そのため、「完全個体」のみの重量分布を検討した場合、もともと左右対称な正規分布していた殻重量は、溶解が進むほど軽いものがカウントされないために、その分布形が歪んでいく。この殻重量分布の歪度は殻溶解程度と良く相関し、すぐれた炭酸カルシウムの溶解指標となることが分かった。過去の堆積物についても同じ分析を行うと、最終氷期最寒期から融氷期にかけて歪度が小さく、溶解程度が少ないことがはっきりした。歪度から期待される溶解後の重量を実重量から引くと、過去における二次石灰化量も計算されるが、これも系統的な変動は示さなかった。ここまでの成果は、Geochemistry Geophysics Geosystemsに投稿する予定で、3月末に初稿を書き終えている。
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