Research Abstract |
本年度の研究計画に基づき,18年7月12日から19日にかけて長崎県対馬中央部の浅茅湾と三浦湾にて表層堆積物と柱状試料を,北部の舟志湾にて表層堆積物を採取した.さらに昨年度も調査した長崎県大村湾にて11月9.10日に追加調査を行った.これらの現世試料を分析した結果,現在(過去約100年以降)の対馬の内湾生貝形虫群集は,中国・朝鮮半島沿岸のそれよりはむしろ,浦内湾や大村湾に代表される九州沿岸の群集に類似していることがわかった.このことは現在,朝鮮海峡がいくつかの内湾種にとって障壁となっていることを示す. このような内湾生貝形虫の代表的な種であるBicornucythere bisanensisに関して,これまで日本周辺で少なくとも4つの型(A, P, G, M)が認められてきた.今回,これらのうち,生体が手に入った3つの型(A, P, G),および西南日本に生息するBicornucythere sp.について雄性生殖器を詳しく検討した.結果として,これらは全て別種であり,P, G型は中国,朝鮮,ロシア沿岸など大陸沿岸の内湾にしか生息せず,これらの種の移動に関して,現在朝鮮半島が障壁となっていることが確認された. さらに,鮮新世中〜後期に主に日本海側に堆積した地層より産出する貝形虫化石群集を対象として,再度群集解析を行った.その結果,対馬海峡は鮮新世中期に断続的に開いており暖流系の浅海生種が侵入していたことがわかった.しかしながら,2.75Maを境に好冷生種が増加し,また,氷期と間氷期の表層水温差が顕著になったと推定した.また,約3.5〜2.6Maの問,間氷期には水温6-20℃の温帯性中層水が存在し,氷期にはこのような比較的暖かい中層水が存在しなかったことがわかった.しかしながら,貝形虫化石からは温帯性中層水が南方の対馬海峡から流入したのか,それとも北方海峡から流入したのかは明らかにできなかった.
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