Research Abstract |
低分子量の金属錯体から成るガラス状態は,ガラス特有の透明性・均一性・加工性に加えて反応特性や分子設計の点からも優れており,機能性材料として期待できる。しかし低分子量金属錯体は一般に結晶化しやすく,その報告例はかなり限られている。研究代表者は数年前に,希土類のアシルアミノ酸錯体がガラス状態を取りやすいことを見出した。亜鉛・銅・ニッケルのような遷移金属や,極性基が単にカルボン酸の場合には結晶化しやすい。中心金属の希土類ならびに配位子のアシルアミノ酸の双方を系統的に変化させて効果を見るのに都合がよく,わずかな構造の違いが,分子集合体として無秩序なガラス状態形成とどのように関連するか,調べてきた。最終年にあたる本年度は発光性のユーロピウムならびにテルビウム錯体に絞って研究した。ユーロピウム錯体については,特にアルキル部分をこれまでのオクタノイル(C8)以外にアセチル(C2),ブタノイル(C4),ヘキサノイル(C6),デカノイル(C10),ドデカノイル(C12),テトラデカノイル(C14)の誘導体を合成し,炭素数が小さい場合と大きい場合には結晶化しやすく中間の場合にガラス化しやすいことを見出した。また極性基の効果について,フェニルアラニンやセリンの誘導体では,液晶性ガラスとよばれる異方性ガラス状態を取ることも見出した。一方,テルビウム錯体について,メタノールやクロロホルム中で会合し,その結果ガラス状態を形成して行く過程を溶液内の拡散係数や発光強度の濃度依存性を見ることによって追跡した。濃厚溶液から溶媒蒸発によって生成したガラス状態の物性や構造についても調べた。テルビウム錯体の溶液内会合特性はマイクロエマルションやリオトロピック液晶中での構成界面活性剤との相互作用にも現れた。錯体の位置選択相互作用をテルビウムの持つ常磁性を利用して界面活性剤の13C-NMRから調べ,有意義な知見を得た。
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