Research Abstract |
混合原子価金属錯体の光励起による原子価の揺動を観測する目的に関しては,測定対象試料の合成と良質な結晶が得られなかったため,当初の目的に到達することができなかった.そこでこれまで研究がかなり進捗している,Cu212ひし形ユニットを持つジイミン架橋複核銅(I)一次元金属錯体の単結晶光励起構造解析について,配位子に4,4'ビピリジンおよびピラジンを用いた,単結晶を作成し,配位子の違いによる励起構造の変化の比較を行った.また,無限鎖構造の構成単位と同一部分構造を持つ分子性化合物を,フェニルピリジンおよびピラジンを用いて合成し,無限鎖構造との比較を行った.Cu212ひし形構造は光照射に伴い,ひし形平面内で,ヨウ素原子同士が互いに近づき,銅原子同士が僅かに遠ざかる変形を起こすが,基底状態で既に,この傾向が強い化合物,すなわちI-Cu-I結合角が小さいものほど,室温で強い発光を示し,発光量子効率も高い相関関係が示唆された.類似構造を持つ分子性化合物では,光照射時にヨウ素原子がCu212菱形ユニットの面外に回転するように移動する変化がみられた.この変化は,分子全体が回転し,菱形ユニットの変形が少ないことを示している.また基底状態での構造もI-Cu-I結合角が,無限鎖構造のものに比べて大きい.また発光特性は無限鎖構造の化合物の方が優れている.これら銅(I)錯体では,架橋配位子による無限鎖構造をとることにより,Cu212菱形ユニットの基底状態での変形を保ち,光照射下でさらにその変形を助長するような性質が,MLCTによる発光特性に寄与していることが明らかになった.
|