Research Abstract |
リチウム二次電池の負極には現状では炭素系材料が用いられているが,次世代材料として金属間化合物が有望視されている.これまでにわれわれはMg_2Geに着目し,その充放電容量が炭素材料を超えることを見出してきた.また,活物質にあらかじめ機械的にリチウムを添加しておくことで初期不可逆容量の問題を改善できることも示した.しかしながら,これらの電極には,充放電サイクル安定性が乏しいという合金系電極特有の問題が残されている.そこで,活物質粒子同士や粒子と集電体とを強固に結着させることが期待できる「ガスデポジション(GD)法」を電極作製方法として新たに採用した.本研究では,Mg_2Geにこれに機械的にリチウムを添加した試料(Li_xMg_2Ge)を原料としてGD法を行うことにより,初期容量可逆性と安定性の両方に優れたサイクル特性を有する厚膜電極の作製を試みた.リチウム添加量を変えた種々の試料を用いて作製した厚膜電極について充放電測定を行ったところ,以前に検討されたバルク電極(試料粉末を銅網に圧着)の場合とは異なり,リチウムを添加しても初期容量可逆性に顕著な改善は認められなかった.これは製膜時のいずれかの過程で試料が酸化したためと思われる.特にリチウム濃度の高い試料においては,充電曲線に副反応の生起を示す異常が現れていることからもそのことが支持される.そこで,合金粉末をエアロゾル化する際のキャリアガスの純度をより高純度なものに変えてLi添加電極の充放電試験を行った.その結果,充電時の異常な挙動が消滅し,また放電容量の増大が認められた.このように,酸化をある程度抑止することができることが示された.一方,GD法により作製したLi添加Mg_2Ge膜電極のサイクル数に伴う放電容量の変化を調べたところ,GD膜電極はリチウム未添加の場合においても優れたサイクル安定性を有していたが,リチウムを添加することによりその性能を一層向上させることに成功した.特に,サイクル数が少ない時期における容量の低下が大きく抑制されたのは好ましい傾向である.GD膜断面の走査型イオン顕微鏡観察より,Mg_2Ge粒子が基板にめり込んで固定され,さらに,個々の粒子の密着性も高くなっている様子がうかがえた.また,膜の一部に空隙が存在していたことから,それらが充放電時に活物質粒子の体積変化で発生する応力を緩和する役割を果たしていることが予想できた.これらの相乗効果により,粒子が電気的に孤立しない状態が生まれ,サイクル性が向上したものと考えられる.それに加えて,あらかじめ機械的にリチウムを添加することで,リチウムの挿入脱離に伴う格子の膨張収縮が軽減できたことも優れたサイクル安定性につながったのではないかと推察される.
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