Research Abstract |
単結晶MgOをトンネル障壁に用いたFe/MgO/Feトンネル接合において,室温で200%にも達する巨大なTMR効果が観測されている。バンド計算に基づくバリステイック理論は1,000%を超えるTMRを予測している。さらには,この巨大なTMRが生じる原因が,Feのハーフ・メタル的なバンド構造,電子の持つ運動量の保存,ブッロホ波の対称性の保存にあるとした。しかしながら,接合中に存在する乱れは,運動量およびブロッホ波の対称性の保存を破るため,TMRを大きく減少させる可能性がある。 本研究では,物質の現実的な電子状態と乱れによる電子散乱の効果を同時に正確に取り扱い,Fe/MgO/FeにおけるTMRに対する乱れの効果を調べた。乱れとしては,(i)MgO中のポテンシャルの乱れ,(ii)MgO中の酸素欠損,(iii)接合界面における格子歪み,(iv)接合界面に部分的に形成される酸化鉄,を考えた。計算には,spd軌道タイト・バインディング模型を用い,計算に用いるパラメータはバルクのFeおよびMgOのバンド計算の結果を再現するように選んだ。また,乱れを計算に取り入れるため,有限サイズのクラスターに対して,リカーシブ・グリーン関数法に基づく数値シミュレーションを実行した。クラスターのサイズは,断面が5nm×5nm程度である。コンダクタンスの計算には,久保公式を用いた。またシミュレーションには,自然科学研究機構分子科学研究所のグリッドコンピューティングシステムを利用した。 計算の結果,たとえ上記のような乱れが接合中に存在したとしても数百%を超える巨大なTMR効果が得られることが明らかとなった。Feのハーフ・メタル的なバンド構造によるスピン・フィルター効果は乱れに対して強く,現実の接合で少々の乱れがあっても,Fe/MgO/Feトンネル接合においては大きなTMRが得られると予想される。
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