Research Abstract |
ガラス中のイオンを交換することによって屈折率分布を形成し,平板レンズや導波路など光学部品を作製する技術がある.作製技術のkey pointはイオン交換条件を見出すことにあり,そのために多成分拡散理論に基づいたイオン交換式によって交換過程をシミュレートして,それらの条件を知る方法が最良であると考えられる. 本研究では,3元系のイオン交換式を拡散理論に基づいて誘導し,交換イオンの濃度分布を計算するための偏微分連立方程式を導いた.一方,前年度までに実験に供するためのガラスを探索し,銀を多量に含むホウリン酸塩系ガラスを開発した,交換イオンとしてAg^+,Na^+,K^+の3種を選んだ.そして,実際に濃度分布を計算するためには,交換イオンの自己拡散係数値が必要であるので,それらは放射性同位元素を用いたトレーサー実験によって求めた.そのとき,拡散係数の濃度依存性が非常に大きいことが予想されたので,交換イオン比率の異なる19種の試料について測定し,係数の濃度依存性を考慮した計算が可能となる準備をした.そして,それぞれのイオンの自己拡散係数は,2成分組成の変数による3次式で表わし,計算に供した,濃度分布の計算方法について種々検討し,差分法による数値計算が一般的であると判断して,いくつかの交換条件に適用できる計算プログラムを作成した.また,理論に基づく計算結果が実際の交換濃度分布をどの程度反映しているかを検証するために,計算に用いた初期条件,境界条件などと同条件で実際にイオン交換実験を行った.イオン交換後のガラス試料断面を拡散方向にEPMAによって定量分析し,濃度分布を求めた.分析に当って分析条件の検討や新しい定量補正法を確立して,非常に高い精度での分析値を得ることができた. 実験値と計算値の一致の程度は,理論計算の妥当性および信頼性のバロメーターとなる.上記の計算と実験の準備を整えた上で,ガラスと溶融塩,あるいはガラスとガラスとの間のイオン交換についていくつかの組み合わせを実施し,結果を比較した.その結果,すべての揚合においで両者の濃度分布は議論の余地がないほどよく一致した.そして,濃度分布から屈折率分布に変換する計算も可能にした. また,3成分系イオン交換の特徴を明らかにするために,種々の条件下における交換の計算実験を行い,検討した. 本方法によるイオン交換過程の予測は妥当であるとの結論を得たので,屈折率分布デバイス開発を支援するための計算シミュレーションを意識した計算をいくつか実施し,例えば,平板レンズ作製条件や2段階のイオン交換処理によって埋め込み型の光導波路形成の可能性を例示して,ガラス内に屈折率分布を形成するためのプロセス条件を見出すのに有効な方法であることを確認した.
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