Research Abstract |
富栄養化湖沼生態系の生態学的安定性と物質循環機構を解明し湖沼環境の修復手法を提言することを目的とした.アオコの原因藻類の一種である藍藻類Microcystis aeruginosa,これを捕食する鞭毛虫類物Monas guttula,細菌類Pseudomonas putida等から構成される連続培養系のマイクロコズムを構成し,栄養塩(窒素・リン)濃度を環境パラメータとしたモデル湖沼生態系の個体群動態と多重安定性について評価・解析を行った.栄養塩濃度とpHを制御した実験から,M.guttulaの藻類に対する捕食効果には一種のトレード・オフ関係が存在することがわかった.即ち,M.guttulaの増殖速度は藻類の成長に有利な高栄養状態であるほど高くなるが,高栄養状態ではM.aeruginosaの光合成活性が高くなるために溶液のpHがアルカリ側にシフトすることで,M.guttulaの増殖速度が低下した.また,中程度の栄養塩濃度では,M.guttulaの初期投入個体数に応じて,M.aeruginosaが絶滅する場合と生き残る場合の実験結果が得られ,数理モデルで得られていた多重安定性の可能性が示唆された.また,栄養塩濃度とM.aeruginosaの細胞内生体分子組成の関係を調べると,栄養塩濃度が高い場合は対数増殖期に,細胞内のグリコーゲンと脂質が増加することが分かった.即ち,富栄養化した状態では,水中の栄養塩が藻類によって効率よく吸収され,成長に大きく寄与することが示唆された. さらに,温暖化等の影響で湖沼の水温が高くなることを想定した新しい数理モデルを構成した.藍藻類の成長率が水温に比例すると考えると,夏期の水温に臨界点があり,その水温を越える年は藍藻類が大増殖し,超えない年は抑制されるという多重安定性の特徴が示された.この結果は,相模湖・津久井湖における水温制御(エアレーション)の効果を示す過去20年以上の観測データを良く説明できた.また,植栽が藍藻類の制御に有効であることや,湖沼生態系の管理には,不確実性を考慮した順応的管理(フィードバック制御)が重要であることを指摘した.
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