Research Abstract |
コイ(Cyprinus carpio)とアメリカザリガニ(Procambarus clarkii)は,淡水生態系においてカタストロフィック・シフトを引き起こす侵略的外来種である.これらの動物は底泥の撹乱を通じて,堆積物の化学的・物理的性質を改変する,またキーストーン種である沈水植物の現存量を減らすなど,他の生物群集の利用する資源利用様式を改変する(エコシステム・エンジニア).本研究では,隔離水界を用いて,コイとザリガニの生態的影響が,密度に応じてどのように変化するかを定量的に調べた. 霞ヶ浦に面する国土交通省の実験池に21基の隔離水界(2m×2m×水深80cm)を設置し,野外操作実験を行った.実験池には,あらかじめ沈水植物の土壌シードバンクを含む浚渫土をまきだした.実験は,自然条件をふまえて,コイとザリガニの密度をそれぞれ3段階(0.25・0.5・0.75individuals/m^2,3・6・9individuals/m^2)に操作した処理区に対照区をくわえ,計7処理区を設け,40日間実施した. 実験の結果,水質や生物群集構造に与える影響は,コイとザリガニ間で密度操作に対する応答が異なった.水質への影響は,概して,ザリガニよりもコイのほうが大きかった.例えば,ザリガニ区では密度の増加に伴って懸濁物(セストン)量とクロロフィル量が直線的に増加したのに対し,コイ区では低密度でも高密度に匹敵する高い値を示した.一方,沈水植物の発芽・定着へ与える負の影響は,コイよりもザリガニのほうが大きかった.コイの中・高密度区では沈水植物は認められなかったが,低密度区では対照区同様に,リュウノヒゲモとオオトリゲモが認められた.しかしザリガニ区では密度に関わりなく,沈水植物はまったく生育しなかった.またコイもザリガニも底生無脊椎動物群集を減少させた,一方でコイのみが小型の動物プランクトン群集を増加させた.以上の結果から,外来のエコシステム・エンジニアの生態的影響は,その密度や種の特性によって大きく変わることが示された.これらの研究は,外来種駆除や保全管理に重要な知見を提供すると考えられる.
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