Research Abstract |
日本の北方地域、とくに北海道の植生は本州のそれと大きく異なっており、都市周辺部においても北方地域特有の美しい野生草花の大群落を目にすることができる。本研究は、北方地域における鑑賞価値の高い自生植物の中でもとくに種子が散布されてから,子葉が地上に出芽するまでに二度の冬を要する植物を取り上げ、それらの発芽生態と種子休眠機構を明らかにするとともに、種子から人為的に増殖しようとする際の実用的な知見を得ようとするものである。 1.オオウバユリの種子は,散布直後では,胚長は種子長の約8%であった。野外調査によって,秋に散布された種子は,その年の第1回目の冬と夏を経た秋に胚が生長し,2回目の冬を経だ3月下旬から発根を開始し,4月上旬の雪解け後に子葉を展開(以下,出芽)した。すなわち,種子散布から出芽までに19ヶ月もの期間を要した。種子散布から出芽までにこのような長期間を要するオオウバユリ種子の,発芽のために必要な温度とはどのようなものであろうか?このことを明らかにするために恒温器を用いて68もの温度処理区を設定した。その結果,胚成長から発根までに必要な温度は,高温(25/15℃)→中温(15/5℃)→低温(0℃または5℃)→中温(15/5℃)の温度推移であり,これらの温度のうちどの温度段階が欠落しても発根はしないか,50%以下の低い発根率にとどまった。2回目の中温で発根した種子はまもなく出芽した。また,GAの効果は,高温の代わりとなったが低温の代わりにはならなかった。このことから,オオウバユリの種子は散布直後には未発達の胚を持ち,発芽には複雑な温度要求を必要とする形態生理的休眠をもつ種子であり,その中でもDeep Simple morphological dormancyに分類されることが示された。 2.オオバナノエンレイソウ種子もオオウバユリと同様,形態生理的休眠をもつ種子であり,早春に出芽するこことが確認できた。しかし,野外での胚発達,発根,出芽などの発芽フェノロジーは,オオウバユリとは異なっていた。7月下旬に散布された種子は,翌年の夏の間に胚成長してそのまま発根した。しかし,出芽は2回目の冬を経た春となった。このような発芽過程に必要な温度条件を確認するために,恒温器を用いて33もの温度区を設定したが,現在の所,恒温器内で発根させることに成功していない。
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