2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17580142
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Research Institution | KYOTO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
杉山 淳司 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40183842)
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Keywords | バイオメカニクス / セルロース / 成長応力 / 格子ひずみ |
Research Abstract |
傾斜地に育つ樹木あるいは風雪により外的に傾斜された樹木は、正常な位置に戻るためにあて材という特殊な組織を形成する。この組織は木材の利用を考えた場合は欠点として知られている。しかし、姿勢制御のための力学的な基盤という意味では樹木にとって極めて能動的でかつ重要な組織である。このようなあて材は針葉樹においては傾斜した幹の下側に(圧縮側に)、広葉樹では上側に(引張側に)形成され、前者ではリグニンの含量が多く、ミクロフィブリル傾角が大きいのに対し、後者ではセルロース含量が多く、ミクロフィブリル傾角が小さいのが特徴である。 引張あて材(広葉樹のあて材)におけるセルロースの役割については、古くから議論がされてきている。広葉樹の10センチの枝を想定した場合、枝の上側を引っ張ることで枝を適正な角度に持ち上げるのに、一平方センチあたり100kgfの力に相当する力が必要となる。この力を生み出すのが、繊維に平行に配向するセルロースミクロフィブリルであると考えられてきた。単純に考えるとセルロースが縮もうとしていることになるが、微細な繊維状結晶であるセルロースが縮む、ましてや、結晶弾性率130GPaの微細繊維が伸ばされた状態で生合成されているとは考えにくく、議論が続いていた。 本研究では、結晶のひずみを直接高性能のX線回折装置(Spring8)を用いて精密測定した結果、広葉樹ポプラの枝上側のセルロース結晶が応力開放時に木材の収縮と同時に縮むことが明らかになった。この結果はセルロース結晶が直接的に広葉樹の姿勢制御のための応力発生に関与しているという初めての実験的な証明であり、これまでのセルロースが縮むという一見不思議な推論を支持するとともに、植物体による応力発生機構の解明に弾みをつけるものと期待される。
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