Research Abstract |
含フッ素化合物の合理的設計は,医薬品や農薬の開発において重要である。しかし,フッ素の有する特異的な性質のため,開発が遅れていた。特にエナンチオ選択的モノフルオロメチル化はまったく報告例がなく,未開拓の分野であった。我々はこの課題を克服するため,フッ素という元素の特異な性質を利用したモノフルオロメチル化試薬の開発が本文野での突破口となると考え,モノフルオロメチル化試薬,フルオロビス(フェニルスルホニル)メタンを創出した。この試薬はフェニルスルホニル基の除去が可能なため,調整が困難なモノフルオロメチルアニオン等価体として使用でき,様々な反応に適応可能である。モノフルオロメチル化試薬は,ビス(フェニルスルホニル)メタンからセレクトフロアーをフッ素化試薬に用いて,簡便に合成できる。このモノフルオロメチル化試薬をパラジウム触媒によるアリル位の置換反応において使用した。反応条件を検討した結果,アリルアセテートに対し,不斉触媒として(S)-PHOX(5mol%)と[Pd(C3H5)Cl]2(2.5mol%)を用い,塩基として炭酸セシウムを使用して,塩化メチレン中で反応させると,対応するフッ素化体が高収率,高エナンチオ選択的に得られることがわかった。モノフルオロメチル化試薬の代わりに,フッ素を持たないビス(フェニルスルホニル)メタンを用いると,反応はほとんど進行しないことからも,我々の新型試薬の有用性は明白である。次に本法を創薬分野への活用を展開した。イブプロフェンは広く市販されている医薬品であり,近年では新たな薬理活性も見つかっており,新型誘導体の開発が注目されている。先の反応を鍵反応に用い,先に得られたフッ素化体をオゾン酸化,それに続く還元反応,マグネシウムを用いた脱フェニルスルホニル化反応,Jones酸化の4工程を経て,新規化合物である,フルオロメチルイブプロフェンの両エナンチオマーの合成を達成した。さらにフルオロメチルナプロキセン,エイズ治療薬であるフルオロカルバリボフラノース,フルオロアバカビルの合成も達成した。
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