Research Abstract |
線形なシステムにおける多くの最適分布は,指数関数で表される.これに対して,我々の身の回りで観測される分布は,ベキ関数で表現されることが多い.指数関数族の世界から,ベキ関数族の世界への拡張をはかるために,シャノンエントロピーの1パラメータ拡張であるツァリスエントロピーが1988年に統計力学の世界で導入された. 平成17年度の本研究では,そのツァリスエントロピーによって定まるツァリス統計の基本的事実を得た.その具体的な内容は,スターリングの公式・多項係数・パスカルの三角形・中心極限定理などの,指数分布族における非常に重要な定理や公式がことごとく,べき分布族の系に拡張され,それらの関係についても数学的に証明された.(中心極限定理のみ,数値計算による確認.)これらの結果は,統計力学ならびに情報理論の国際会議で発表し,また,論文投稿・受理されて,現在,印刷中である. さらに,従来,ツァリスエントロピー最大化原理による結果に付随していたセルフレファレンスな形であった最適分布の問題を解決し,その一意な表現を導いた。これにより,ツァリス統計における温度を再定義した.この再定義された温度は,別の方法で定式化された温度と数式上で完全に一致することがわかった.しかも,この温度の定義は,様々な実験結果とも良く一致することが報告されている.すなわち,理論・実験の両面から,非常に整合性の高い結果を得ることができた. また,ツァリスエントロピーとは少し異なり,同じくシャノンエントロピーの1パラメータ拡張であるκエントロピーについて,上述で展開した方法を応用して,κ統計における誤差法則を導いた. 今後,本研究で得た基礎理論をもとにして,ベキ法則が顕著な系,特に,カオス・フラクタル・スケールフリーネットワークなどべき分布が本質的に重要になる系への応用が見込まれる.
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