Research Abstract |
本研究では,文献研究と前年度までの調査(橋本2003感情心,日教心)から,成人になろうとする青年後期及び中年期において,成人期の課題に関わるつらさや感動という感情経験に心を揺さぶられて「制御しきれずに」泣く経験が,結果的に自己の内面や他者との関係性に気づく「心理的変化」の機会となり,そこから現実受容,目標発見,関係再構築などの自他認識変化(自己成長)が生じる可能性を作業仮説的に想定した(成人期の課題である子育てにおける正負の感情経験と親の自己成長に関する考察を含む論文を発表:橋本,2006)。17年度の調査実施状況と主な知見は以下の通り。(1)教育,医療,福祉の各分野大学生を主な対象(参加者は一次249名,二次326名)に,泣き経験とつながる感情的状況,泣きの制御,泣きによる心理的変化について調査し,橋本(2003)の尺度を再検討した。結果,(1)泣き経験は,自己の直接的苦痛での泣き以外に,感動等による泣き,他者の感情への代理的泣き等の状況差に応じて抑制度が異なり,性差も変動する(感情心,2005;ISSBD2006で発表)。(2)泣きによる心理的変化は個人内変化(気分改善等)だけでなく対人的影響(被援助等)があり両者は相関する。(3)感情喚起状況によって一人で泣くか人前で泣くかの対人的表出制御が分かれ,それが泣きによる内省・内的情動調整に影響する相互的・時系列的関連を分析する必要がある。(2)教育実習,福祉実習という私生活とは異なる発達機会における感情経験についてインタビュー(16名),作文(42名)等を行った。実習で心理的に追いつめられたが泣きつつも誰かに支えられて克服し,実習を通して変わったと報告する事例があった。(3)親子と生死に関する映像作品を大学生に個別に視聴させ報告を求めた。代理的泣き状況での経験想起と内省・心理的変化の関係が示された。(4)30代前半の男女4名に青年期版質問紙を行わせ,成人期の感情経験について集団インタビューを実施した。(5)中年・初老期成人29名から感情経験の筆記提出を受け,成人期の特徴を検討した。
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