Research Abstract |
本研究は,農村地帯に放棄された水田を,ビオトープとして,学校教育や社会教育の材料として維持・管理し,活用していくシステムを確立していくことを目的としている.休耕田は自然湿地とは異なる人工湿原とも言える環境であるが,希少種のいわば「逃げ込み場」となっているところも少なくない.本研究の主なフィールドは,越前市(旧武生市)黒川町の休耕田を用いた.一昨年に放流したメダカは完全に定着しており,またマツモムシやアメンボ,ヤゴなどの水生昆虫も豊富になった.全国的に個体数の減少が著しいナミゲンゴロウの産卵および幼虫の成長も観察することができた.観察会などのフィールドとして用いられる教育材料と,ナミゲンゴロウやハッチョウトンボなどの希少種の保全場所という両側面をにらみつつ,維持管理方法を模索している.本年は,無処理区を5ヶ所設けて,ここではコナギ,イボクサなどの水田雑草の除去を一切行わなかった。夏期〜秋期にかけて.これら両種を中心とする水田雑草の繁茂は著しく,年単位で放棄すれば,休耕田全体が陸地化する危険性は高い.草抜きによる間引きは,一見一時的に開放水面域を作るだけのように思えるが,水中内に占める雑草の茎などの容積は,無処理区は,適宜雑草を間引いた場所より大きくなる.メダカなどの移動を阻害してしまうエリアも見られた. 瀬戸内や九州地域の同様の休耕田で比較調査した結果,北越地域には,他地域に比べて,優れた休耕田が多く残存することが判明した.これは,この地域が,もともと農業が盛んであったことに加え,水資源が豊富であることも大きいと考えられる.少子高齢化社会を見据えた地域社会の立て直しと,休耕田の保全が両立できるシステム作りが急務である.
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