2007 Fiscal Year Annual Research Report
放射線照射により促進される線虫の連合学習機構に関する研究
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17710052
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
坂下 哲哉 Japan Atomic Energy Agency, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (30311377)
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Keywords | 放射線 / 学習 / 神経 / 行動 / センサー / Gタンパク質 |
Research Abstract |
放射線被曝後の学習行動の障害は、有人長期宇宙飛行(火星等)や放射線がん治療における重要な潜在的リスクである。現在、この分野の研究は、放射線被曝後の神経新生の抑制に関心が集まっている。しかし、神経新生の場である海馬以外の中枢神経系も同時に放射線に被曝するが、その影響はほとんどわかっていない。そこで、本研究では、神経新生が関与しない放射線の学習行動への影響を明らかにするために、成熟した神経系を持つ線虫を用いて、化学走性学習、嗅覚順応、首振り運動と化学走性学習行動との関係に与える放射線照射の影響を調べた。 化学走性学習に対する放射線照射の影響を調べた結果、興味深いことに条件付けの最中(学習中)に放射線を照射した場合にのみ、照射直後の化学走性が有意に付加的に低下することを発見した。また、この放射線応答が、感覚神経系の一部で発現するGタンパク質γサブユニットが欠如したgpo-1変異体において有意に抑制されることを発見した。これらの結果は、線虫の化学走性学習に対する放射線照射の影響が、特定の感覚神経に局在するGPC-1を介して修飾的に働く可能性を示唆した(以上の結果:FASEB J, 2008に掲載)。また、線虫の学習行動のひとつである嗅覚順応では、同様の放射線応答が観察されないこと(Biol Sci Space, 2007)から、放射線がすべての線虫の学習行動に影響を与えるわけではないことが見出された。さらに、首振り運動と化学走性学習との関係に放射線が影響を及ぼすことを見出した(J Raiat Res, 2008 in press)。この結果は、神経系の複数の機能が連携する部分に対して、放射線が影響を及ぼすことを示唆している。 本研究により、神経新生が関与しない神経系の機能(学習など)に対する放射線の影響が世界で初めて明らかとなった。
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