2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17720064
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
金 鉉哲 東北大学, 高等教育開発推進センター, 講師 (80361210)
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Keywords | 近代劇 / 小山内薫 / 柳致鎮 / 小劇場運動 / 俳優と観客 / 翻訳劇 / 創作劇 / 伝統劇 |
Research Abstract |
本年度の研究は日韓近代劇の先駆者である小山内薫と柳致鎮の演劇論比較を中心に行った。この両人は日韓演劇史において近代劇を樹立するために孤軍奮闘した先覚者として非常に重要な人物である。小山内薫と柳致鎮がとった演劇的な方法は何か、その結果いかなる演劇論が定立されたか、彼らが理想とした近代劇の実体は何であったかを中心に調べた。殊に日韓の近代劇論争を四つのポイントとして整理して明らかにした。 第一は「小劇場運動と大劇場論に関する論争」である。小山内薫は近代劇運動の基盤を築きあげるために西欧ヨーロッパの近代劇運動である「小劇場運動」をそのまま継承して既存の商業劇とは異なる新しい演劇を確立しようと努力した。しかし、小劇場運動は大衆の関心とは離れ、少数の知識人の慰安のための公演に転落してしまった。柳致鎮は小劇場運動の限界を克服するために「大劇場論」を公演方法論で主張した。大劇場論は朝鮮に近代劇を確立して植民地大衆を教化・啓蒙するという目的と深い関係があった。第二は「俳優と観客に関する論争」である。小山内薫にとって近代劇樹立において何より重要なのは西欧の戯曲を日本に紹介することであった。ひたすら戯曲・俳優にのみ関心が集中して、観客は二次的な対象にすぎなかった。これに比べると柳致鎮の関心は少数の知識人ではなく、多数の農民・労働者にあった。第三は「翻訳劇と創作劇に関する論争」である。小山内薫は翻訳劇公演の重要性を強調したが、柳致鎮は翻訳劇と創作劇を折衷する立場だった。小山内薫は新派との競争を意識しながら、真の意味の西洋近代劇として翻訳劇公演を主張した。しかし、柳致鎮は築地小劇場の失敗を体験したので大衆に近付ける創作劇をより重要視した。第四は「伝統劇に対する新しい認識」である。小山内薫は古典研究会を結成して伝統劇に取り組んだ。このような古典研究は歌舞伎の再評価ではなく、新しい劇作と演出のための方法論的な再検討にあたる。これに対して柳致鎮は韓国の伝統劇である「山台劇と五広大」の演劇様式を理想的な形態として評価した。四つの論点の中で両人が共に近代劇の樹立するために自国の伝統劇継承に関心を持ったことは非常に重要なポイントである。次年度からには近代劇と伝統劇の関連性について研究を深めていく計画である。
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