Research Abstract |
外国語学習が進むにつれ,「好まれる言い回し」,「より自然な表現」というのは重要な問題となってくる。本研究は,「ドイツ語らしさ,日本語らしさ」という問題について,近年の認知言語学の知見を援用しながら,語学教育に資するような基盤研究を進めることを目指すものである。 研究初年度である本年度は,先行研究の概観と問題点のまとめ及びコーパス調査・分析を中心的な作業として進めた。ある事態を言語化する際,言語の話し手は,その事態を眺める視座をどこに定めるのか,その事態を構成する諸要素の何を取り上げ,何を取り上げないのか,そして最終的にその事態をどのように言語化するのか,といった一連の決定を主体的に行っていると考えられるが,そのような事態把握や言語化の過程における各言語間の類似や相違,そしてその体系性についての予備的な考察が中心となった。 本年度は,とりわけ言語の話し手が事態を捉える際の視座の取り方に関して分析を進めた。その際,比較的差異が際立つと思われた感覚に関連する表現を分析の出発点とした。話し手の視座の取り方に関しては,一般に,言語化の対象となる事態の中に自らを置くという形の主観的な事態把握と,事態を外から眺めるという形の客観的な事態把握の大きく二つが区分される。この点に関して,日本語は主観的な言語であるとされるが,実際に事例を観察していくと,ドイツ語にも多かれ少なかれ主観的な側面が見出されることが明らかとなった。その点を踏まえた上で,ドイツ語は「どの程度主観的であり得るか」という点についても考察を進めている。 現時点での成果は,日本独文学会語学ゼミナール及び日本認知言語学会ワークショップにおいて口頭で発表した。その内容は現在論文にまとめているところである。なお,話し手の事態把握に関する日独対照研究としては,昨年度までの成果も踏まえ,二本の論文を公表した。
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