Research Abstract |
本研究は,「ドイツ語らしさ,日本語らしさ」という問題について,近年の認知言語学の知見を援用しながら,日独語において好まれる事態把握,言語化の仕方について,語学教育に資するような基盤研究を進めることを目指すものである。 本年度は当初の予定通り,主に次の三点に関して取り組んだ。まず,本研究は実証データとして主に日独の翻訳資料を用いるため,一般的な翻訳の手法に関して先行研究を概観した。平行して,これまで個人で構築してきた対照研究の:ための言語資料を用いて,個々の仮説を実証的に検証する作業を進めた。加えて,空間認知をめぐる日独の相違に関して新たに考察を進あた。 後者二点について,具体的には,現場における話者の言語化(例:「ここはどこ」と「私はどこにいるのか」),「気づき」を表現する場合の話者の言語化(例:「見上げると雲が浮かんでいた」と「見上げると私には雲が見えた」),語りのテクストにおける直示表現の使用(例:「うしろから叫び声がした」と「彼のうしろから叫び声がした」),いわゆる筆間分布を表す時間表現め使用(例:「時々家並みがとぎれ…」),語りのテクろトにおける話法や時制の使い分け(あるいは混在)(例:「このうちに相違ないが,どこからはいっていいか,勝手口がながった」)などである。これらについて,ドイツ語では自己の客観化ないし客観的な事態把握が,日本語では自己の非言語化ないし主観的な事態把握が優勢である点を確認した。 結果については,予備的なものを紀要論文として発表し,さらに理論的な考察を交えたものを,現在学会誌に投稿中である。また,語学教育への応用という観点から,初級ドイツ語教科書に「言葉の感覚」というコーナいを設け,日本語と発想の異なる表現についてコラム的に解説を加えるという試みを行った。
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