2005 Fiscal Year Annual Research Report
中世日本語資料としてのキリシタン写本・書簡類の研究
Project/Area Number |
17720102
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
川口 敦子 長崎大学, 教育学部, 講師 (40380810)
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Keywords | キリシタン / 国語学 / 日本語 / ローマ字表記 / 中世 / 写本 |
Research Abstract |
本年度は、キリシタンの写本類、手稿資料の資料収集と解読を中心に行った。キリシタン資料特有の表記を理解するために必要なポルトガル語とラテン語についての知識を深め、バレト写本やイエズス会ローマ文書館所蔵日本・中国関係文書(ARSI Jap. Sin.)のローマ字書き日本語を調査し、研究補助費で購入したパーソナルコンピュータで調査データを整理した。 上智大学キリシタン文庫では、所蔵されているARSI Jap. Sin.の複写資料を閲覧し、その中からローマ字表記の日本語で書かれている手稿資料を抽出し、その表記を翻刻して精査した。そのうち、1617年のポーロ報告書内の石原アンタン父子殉教報告書(Jap. Sin.17.317r-318v)のローマ字書き日本語文書の本文を翻刻・翻字し、キリシタン版やキリシタン写本類の表記をと比較した。その結果、Jap. Sin.17.317r-318vの表記は、概ね版本と共通しているものの、いくつかの表記については版本とは異なる特異な表記が使用されていることがわかった。特に、反復記号に相当する「.y.」と、qui(キ)の省略表記は、ヨーロッパ言語の省略表記を日本語のローマ字表記に転用したものである点が注目に値する。これらの特異な表記を他の資料の表記と比較してみた結果、1619年の手稿資料とは共通するが、1564年と1591年の手稿資料とは共通しなかった。この研究によって、キリシタンの写本類には、版本とは違う写本類独自の表記規範が存在したであろうこと、キリシタン前期(1500年代後半)とキリシタン後期(1600年代前半)とで異なる表記規範が存在した可能性があるということがわかった。この研究成果は「長崎大学教育学部紀要 人文科学 No.72」に発表した。ただし、今後もさらに多くのキリシタン写本類の表記を調査する必要がある。 現在、キリシタン文庫で閲覧調査した残りの資料の翻刻と解読を継続中である。
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Research Products
(1 results)