2005 Fiscal Year Annual Research Report
懲罰的賠償の法過程--私人による法実現の可能性と限界--
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17730001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (70322782)
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Keywords | 懲罰的賠償 / 実体的デュープロセス / 裁判所の裁量 / 法と経済学 / 抑止 / 損害填補 / 強制的クラスアクション / 制裁 |
Research Abstract |
2003年のState Farm Mutual Automobile Insurance Co.v.Campbell連邦最高裁判決(538 U.S. 408)は、特に、懲罰的賠償の額を原則として填補賠償の額の10倍以内という数字を伴った判示をしたことから、この数字をめぐって州裁判所を含む下級裁判所の慎重な態度が見出された。すなわち、当該事件における被告の悪性を強調する判示をしているにもかかわらず、そしてCampbell判決自体が場合によっては10倍を超える可能性を示唆しているにもかかわらず、懲罰的賠償は填補賠償の10倍を超えない範囲に抑えられる例が散見された。憲法上の根拠はともかくとして明快な数値が最高裁によって示されたことにより、上訴によって判断を覆されることを恐れる下級裁判所の裁量の幅が大きく狭まっていることが確認された。 他方、かかる連邦裁判所による憲法的介入を視野に入れた新たな理論の構築を試みる学説が出現してきていることも確認された。1990年代まで(連邦裁判所による介入が本格化する前)の学説(特に法と経済学の方法論に立つもの)においては、懲罰的賠償の違法行為の抑止という機能に特に着目して、潜在的加害者の違法行為の最適抑止のための制度設計が試みられていた。これに対し新たな理論においては、懲罰的賠償の持つ多面性に着目し、それぞれに応じた分析的枠組みの提出が試みられている。損害填補の概念を再構成して社会全体に散らばった損害を糾合する機能を懲罰的賠償に見出すもの、政府の行為としての制裁的側面と私的な「懲罰する権利」の複合を見出すもの等である。 もっともかかる理論構築はアメリカにおいても始まったばかりであって、理論の総合はこれからである。また、本年度は判決に到達しない法実務への影響については十分に検討できなかったので、来年度の課題としたい。
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