2005 Fiscal Year Annual Research Report
保険契約法におけるモラル・リスク抑止法理の統合的考察
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17730070
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
榊 素寛 神戸大学, 法学研究科, 助教授 (80313055)
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Keywords | 保険法 / モラル・リスク / モラル・ハザード / 偶然性 / 立証責任 / 故意免責 |
Research Abstract |
保険者により保険契約者等が故意に保険事故を招致したことが立証された場合保険者が免責され、保険金請求者により保険契約者等が故意に保険事故を招致していないこと(保険事故の偶然性)が立証された場合、他の要件を満たす限り保険金の請求が認容されることは、現行商法・約款上争いがない。「保険事故の偶然性の立証責任」の問題とは、上記のいずれとも立証がなされず真偽不明となった場合に保険金の請求が認容されるか否かの問題であり、この結論は、故意ないし偶然性の立証責任をいずれの当事者が負担するかに依存する。 最判平成13年4月20日民集55巻3号682頁により、傷害保険では偶然性の立証責任が保険金請求者に課される(すなわち、故意に保険事故が招致されていないことの立証が必要となることになり、これを機に、保険会社が保険金請求者の不正請求(モラル・リスク)を疑う場合に、保険事故の偶然性の立証を求める傾向が顕著になっていた。ところが、最判平成16年12月13日民集58巻9号2413頁により、火災保険に関しては故意の立証責任を保険者が負う(すなわち、免責のためには故意に保険事故が招致されたことを保険会社が立証する必要がある)ことになった。 本年度の公刊業績における研究成果としては、第一に各種保険契約における保険事故の偶然性(ないし故意)の立証責任の所在に関する私見の提示であり、モラル・リスクを理由とした立証責任の転換を認めるのではなく、他の方法による事前抑止のインセンティヴを与えるべきという結論を示した。第二に、平成13年判決と平成16年判決の法律構成を分析し、最終的には、最高裁があえて説得力のない理由付けを示したことの背景には消費者契約法10条による約款の不当条項規制を用いて、今後保険事故の偶然性の立証責任を保険金請求者に求める約款条項を無効にする意図を有しているのではないかという分析結果を導いた。
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