2005 Fiscal Year Annual Research Report
カイラル外挿の不定性を取り除いた格子QCDの数値的研究による新しい物理の探策
Project/Area Number |
17740171
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
金児 隆志 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助手 (20342602)
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Keywords | 格子量子色力学 / 数値シミュレーション / カイラル対称性 |
Research Abstract |
格子QCDの数値シミュレーションは強い相互作用の物理を非摂動論的に研究する有力な手法であるが、従来のシミュレーションアルゴリズムでは、クォークのダイナミクスを考慮したシミュレーションにおいてクォークの質量を軽くすると、演算量、従って、計算時間が極めて急速に増大する。現実世界でのアップ・ダウンクォークの質量は5MeV程度であると考えているが、上記の理由により、実際のシミュレーションでは、40MeV程度、或は、それ以上のクォーク質量を用い、結果を現実のクォーク質量に外挿していた。このカイラル外挿によって大きな系統誤差が生じ、物理量の精密計算、及び、標準理論の低エネルギー領域での検証を妨げていた。 本研究では、アルゴリズムの改良等により、カイラル外挿の系統誤差が大きくならない程度にクォーク質量を軽くした数値シミュレーションを行い、物理量を高精度で計算することを目的としている。本年度は、そのための、アルゴリズムの研究等を行った。 まず、第一に、クォークを軽くした時にシミュレーション時間が増大する要因の一は、Wilson型のクォーク作用がカイラル対称性を顕に破るため、そのDirac演算子が下からバウンドされないことであることと考え、格子作用としたNeuberger-Narayananによるoverlap作用を採用したシミュレーションを行った。さらに、Hasenbuschによるpreconditioningとmultiple time scaleと呼ばれる手法を併用することによって、シミュレーション時間のクォーク質量依存性が非常に緩やかになることを見た。 さらに、シミュレーションをより高速に行うために、シミュレーションの律速段階となるoverlap Dirac演算子の逆を解くアルゴリズムとして、general minimal residual algorithmを始めとする多くのアルゴリズムをテストし、その結果、relaxed conjugate gradient algorithmを採用した。 これらの準備研究の後、物理量を計算するためのシミュレーションに着手した。
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