2005 Fiscal Year Annual Research Report
第一原理的な量子反応速度理論の開発とその酵素触媒反応への応用
Project/Area Number |
17750013
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 武志 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (30397583)
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Keywords | 化学反応 / 反応速度 / 量子効果 / 遷移状態理論 / 経路積分 / 酵素反応 |
Research Abstract |
本研究の目的は、量子反応速度理論に基づいて化学反応の速度を正確に計算するための方法を開発し、それを酵素触媒反応に適用してその実用性を検証することである。また、計算プログラムを汎用の分子動力学プログラムパッケージであるAmberに実装し、広く一般の研究に役立てるようにすることである。計算方法としては、(1)線形応答理論に基づく量子遷移状態理論(特に最近提案された量子インスタントン近似)と、(2)近似的な動力学的補正、特に古典的ウィグナー近似やセントロイド近似を用いた時間相関関数の計算、の2つを土台とする。平成17年度はこれを実現するための下準備として、Amberプログラムパッケージに次の2つの新しいモジュールを付け加えた:(1)一般の系に対して経路積分分子動力学シミュレーションを行うためのモジュール。上で述べたような量子反応速度理論を現実の反応系に適用する強力な手法の一つは経路積分である。これは、定性的にいえば、ひとつの古典系をバネでつながった複数の仮想的な系に置き換えて、その複合系のシミュレーションを行うことで量子論的な性質を調べることに相当する。このような手法は、系がせいぜい数百原子程度(典型的な溶液のシミュレーションなど)なら問題ないが、一万原子以上が必要な系(酵素反応など)では計算量がシビアな問題になる。計算量を下げるポイントは、反応中心付近のみを経路積分で取り扱い、反応中心から一定距離はなれた部分(遠くのアミノ酸残基や溶媒など)は古典的に扱うことである。これをAmberプログラムの中で実現するために、locally enhanced sampling(LES)と呼ばれる既存のモジュール(統計サンプリングの効率を上げるために使われていたもの)を改造し、非常に見通しの良い形で新しい経路積分モジュールを導入することが出来た。このモジュールでは上で述べたように、系の任意の部分のみを経路積分で、ほかの部分を古典力学で扱うことが出来る。(2)化学反応のポテンシャル面を記述するためのempirical valence-bond(EVB)力場モデルのモジュール。AmberやCharmmなど経験的ポテンシャル関数を用いる分子動力学プログラムでは化学反応を記述することが出来ない。これを克服する最も直接的な方法は反応中心のみを非経験的(ab initio)電子状態理論、またはその半経験的近似で取り扱い、残りの部分を従来の経験的ポテンシャル関数で扱うことである。これは一般にQM/MM(量子力学・分子力学)法として広く用いられているが、計算コストが低くはなく、統計サンプリングが十分取れないという難点がある。そのため、本研究ではQM/MMと経験的ポテンシャル関数の折衷案として上に述べたEVBモジュールを作成した。特に量子化学計算の情報をより正確に反映させるため、Schlegelグループによる新しいEVB関数を採用した。以上、平成17年度の研究は米国カリフォルニア大学、ユタ大学、スクリプス研究所と共同で行った。
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Research Products
(3 results)