Research Abstract |
高温超伝導体の発見以来,低次元構造を有する磁性体の振舞いに注目が集まっている.その中で,特に最近の顕著な研究は,高田らによるコバルト酸化物(Na_<0.35>CoO_2・1.3H_2O)における超伝導の発見である.この化合物は,母体となるCo酸化物(Na_<0.7>CoO_2)のCoO_2層間に位置するNaを部分的に脱離して,水分子を層間にインターカレートすることにより得られる.CoO_2層のキャリアー濃度および層間相互作用がナノスケールで制御されて超伝導が発現したと考えられ,世界初のCo酸化物超伝導体となった.本研究では,磁気ゆらぎが強いと考えられる層状遷移金属化合物において,層間に種々の原子・分子を導入し,ナノスケールで物質・構造制御を行い,超伝導等の新奇量子臨界現象を示す層状無機セラミックス化合物を開発することを目的とする. 本年度はまず低次元構造を有する層状型Bi_2Sr_2Co_nO_y (n=1,2)化合物に着目し,ヨウ素インターカレーションによる,この系の電気的磁気的特性を担うCoO_2層の層間距離の制御を試みた.その結果,温度勾配型電気炉を用いてヨウ素分圧を制御することにより,ヨウ素をインターカレートすることに成功し,結晶構造におけるCoO_2層の層間距離が大幅に(c軸の格子定数が1.497nmから1.858nmへ)変化することを見出した.現在のところヨウ素原子位置は明らかではないが,銅酸化物系との比較から,恐らくBi_2O_2層間に挿入されていると考えられる.超伝導量子干渉磁束計による磁化測定および四端子法による電気抵抗測定により物性評価を行った結果,ヨウ素インターカレート後もCoO_2層内の伝導性は保たれており,2次元的な化合物が得られたことが明らかとなった.今後,核磁気共鳴(NMR)を用いた,この系の微視的な電子状態の観察を行い,CoO_2層の基底状態を明らかにするとともに,キャリアー導入および層間距離の制御により,新たな強相関物性の発現を目指したい.
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