2018 Fiscal Year Annual Research Report
Studies of Gravity from the viewpoint of Quantum Entanglement
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17F17023
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BHATTACHARYYA ARPAN 京都大学, 基礎物理学研究所, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-10-13 – 2020-03-31
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Keywords | 超弦理論 / ゲージ重力対応 / 量子情報 / 複雑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らによって提案されたエンタングルメント純粋化と呼ばれる二体間の相関を表す量のゲージ重力対応における計算法が、最近注目を集めている。しかしながら、場の量子論におけるこの量の計算はこれまでにほとんど研究がなく、研究代表者と分担者の2018年度の研究では最初のステップとなる解析を行い、論文に出版した。自由スカラー場理論を考え、数値的な解析を行った。特に波動関数がガウシアンになるという仮定を導入することで、計算をすべて行列計算に帰着させることができた。我々の数値解析によって、エンタングルメント純粋化が、もう一つの相関を測る量である相互情報量と大きく異なる振る舞いを示すことが分かった。特に二体の距離が近い場合にプラトーのような振る舞いを示すことが発見された。この興味深い振る舞いをさらに詳しく解析する研究も開始したところであり、より大きな部分系のサイズに対する結果も得られ始めている。
ゲージ重力対応において何故、共形場理論から反ドジッター空間が創発するのかという基本的問題はいまだに明確には理解されていない。それを具体的に説明する仕組みとして研究代表者らは経路積分の効率化という新しい考え方を提案している。研究代表者と分担者らは、とくに共形場理論にレレバント変形を行った場合にこの対応がどのように変形されるのか調べ、結果としてゲージ重力対応から期待される反ドジッター計量の変形が摂動の一次の項で再現された。このようにして経路積分の効率化というアプローチが、共形場理論よりも一般の場の理論でも適用できるという証拠が得られた。
研究分担者は、複雑性と呼ばれる最近注目を浴びている量子情報理論的な量について、場の理論における解析を行った。その結果、繰り込み群のフローによってどのように複雑性が影響を受けるのか明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、研究代表者は7本、研究分担者は5本の論文を雑誌に出版した。本年度に予定していた研究内容に関する論文を出版したことに加えて、研究代表者と分担者ともに複雑性に関する新しい結果をそれぞれ複数得ることができ論文として出版した。前者(本年度にもともと予定していた研究成果)では、経路積分の効率化のレレバント変形の解析と、エンタングルメント純粋化の自由場理論における数値計算を行った。
後者(さらに追加で得られた研究成果)では、研究代表者は、ゲージ重力対応の時空自体を量子サーキットを解釈できるという予想を提案し、それに基づくと、数年前にサスキンドらによって提案されているホログラフィック複雑性の公式を基底状態の場合に説明できることを見出した。また、経路積分の効率化をエンタングルメント純粋化の計算に応用し、ゲージ重力対応から予想される結果をうまく再現した。この研究はPRL誌に掲載され、注目を集めている。これらの研究成果によって研究代表者は、ICHEP会議のプレナリー講演等、9つの国際会議で招待講演を行った。またイタリア・トリエステで毎年行われる大規模な超弦理論に関するスクールで招待講義を行った。また研究分担者は、場の理論における複雑性の研究成果を複数の論文に出版した。繰り込み群のおける複雑性の変化を明らかにした興味深い研究を論文に発表した。また、トポロジカル相を複雑性を用いて特徴づけることを目的とした先駆的な研究業績も挙げている。
以上のように、本年度は当初の予定を大幅に上回る研究成果を挙げることができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の大きな研究の目標は、場の理論におけるエンタングルメント純粋化の解析をさらに進めることである。特に、自由スカラー場理論に関して詳しい解析を行い、部分系のサイズがより大きな場合についても数値計算の手法を工夫することで解析を可能にして、二つの部分系の距離の関数としてどのような特徴的な振る舞いをするのか明らかにしたい。特に2018年度の研究でえられたプラトーの振る舞いが、部分系を大きくしたり、全体系のサイズを変えた場合にどのように変化するのか明らかにしたい。また自由スカラー場に加えて、スピン系(例えば横磁場Isingスピン模型)におけるエンタングルメント純粋化の解析を行いたい。スピン系の場合は、自由度が有限になるのでガウシアンのような仮定を置く必要がなく、厳密な結果が得られると期待される。横磁場Ising模型では量子相転移が起こるので、相転移とエンタングルメント純粋化の振る舞いの関係を調べることも興味深い。かなりヘビーな数値計算が必要となるので、研究代表者と分担者以外にも数値計算の専門家とも共同して研究を推進したいと考えている。
前述の研究が終わり、まだ余裕があれば、局所的励起状態の量子エンタングルメントの解析を行いたい。具体的に局所演算子を挿入した状態の線形和で与えられる混合状態のエンタングルメントエントロピーを計算したい。共形変換を用いるとトーラスの2点関数に帰着できると期待され、特にホログラフィック共形場理論や自由ディラック自由フェルミオン理論の場合に解析的な計算を行いたい。
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Research Products
(25 results)