2017 Fiscal Year Annual Research Report
Biosynthetic study on bioactive compounds from marine sponges
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17F17114
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
脇本 敏幸 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (70363900)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
URIA AGUSTINUS 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2017-07-26 – 2019-03-31
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Keywords | 海綿 / メタゲノム / 生合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
海綿動物は多種多様な共生微生物を宿す付着性の多細胞動物である。世界中の海に生息し、1万種が現存するといわれる海綿動物からは、これまで2万以上の生理活性物質が単離、報告されてきた。ランダムスクリーニングに由来するため細胞毒性物質の数が多く、pM程度の濃度で強力な細胞毒性を示す化合物も少なくない。しかしながら、それらの多くが稀少かつ複雑な構造を有するために、抗がん剤として研究開発がなされた化合物は極めて少ない。一方で、それら海綿由来細胞毒性物質のほとんどは共生微生物によって生産されることが示唆されている。本研究では医薬品資源として有望な海綿由来稀少生理活性物質の生合成遺伝子および生産菌を同定し、可培養化や異種生産を目指した基礎的知見を得る。海綿―共生微生物系が生み出す二次代謝産物の生合成研究は、放線菌などの単一バクテリアによる生合成研究とは異なり、対象が複雑系であり、単純なゲノム解析だけでは遺伝子を突き止めることはできない。また、生産菌の多くは未培養微生物であるために、遺伝子破壊実験や同位体ラベル投与実験も不可能な研究対象である。そのため海綿二次代謝産物の生合成研究は遅れており、生合成遺伝子の取得ですら困難な状況が続いている。我々が先行研究で行ったカリクリンA生合成遺伝子の探索は海綿由来代謝物の生合成研究としては数少ない成功例の1つである。本研究ではより困難かつ挑戦すべき対象である稀少な海綿由来天然物の生合成機構を明らかにする。特に異なる海綿動物から微量成分として見出されたspongistatinの生合成遺伝子の特定を進める。Spongistatinはtrans AT型PKSによって生合成される化合物であり、その生合成遺伝子には特徴的な配列を有するketosynthase (KS)が含まれる。したがって昨年度はKSの縮重プライマーを用いた探索を重点的に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究対象としたスポンジスタチン(spongistatin)は、アリゾナ州立大学 G. R. Pettitらがモルジブ近海の海綿Spongia sp.より見出した細胞毒性物質である。約400 kgもの海綿から10 mgの化合物の精製に成功し、1993年にその構造を報告している。興味深いことに全く同じ構造を有する化合物が同年、別の研究グループから報告された。大阪大学薬学部の北川らは沖縄産海綿Hyrtios altum 112 kgから0.5 mgのaltohyrtin(= spongistatin)を精製し、構造決定した。また東京大学農学部の伏谷らは伊豆諸島産海綿Cinachyra sp. 6.6 kgよりcinachyrolide A (= altohyrtin = spongistatin) 1.1 mgを単離、構造決定した。これらはいずれも同時に報告されたために、3つの異なる名前が同じ化合物に対して付けられた。またいずれの海綿も系統的に異なる海綿であり、その生産者は異なる海綿動物に共生する共通の微生物である可能性を示唆している。しかしいずれの海綿においても含有量が低く、稀少な化合物であるため、生産菌は共生微生物叢の主要種ではない可能性が高い。スポンジスタチンの細胞毒性活性は極めて強力であり、各種がん細胞に対して数十pMのIC50値を示す。微小管重合阻害作用が作用機序として明らかになり、抗がん剤として有望視されている化合物である。外国人特別研究員のAgustinus Uria博士の協力のもと、spongistatin含有海綿より、バクテリア画分の分画を行い、異なる画分についてKSに対する縮重プライマーを用いた解析を行った。その結果、望むtrans-AT型の配列断片を得ることに成功した。引き続き、特異的プライマーを用いたスクリーニングを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度より開始したspongistatin生合成遺伝子の探索を引き続き進める。すでにspongistatin生合成酵素として予想されるtrans AT PKSのKS配列の断片を海綿メタゲノムから得ることに成功している。当初フォスミドライブラリーの作製に苦労したが、高分子量DNAの調製方法を種々検討した結果、ライブラリー作製にも成功した。現在は得られたKS配列への特異的プライマーを用いたスクリーニングを行っており、引き続きspongistatin生合成遺伝子を含むクローンの取得を目指す。さらに、spongistatinには特徴的な構造部位としてピラン環を有する。PKSによるピラン環生合成にはpyran synthaseが関与することが分かっているため、pyran synthaseに対する縮重プライマーを用いて該当する配列断片の取得を目指す。目的の遺伝子配列が得られれば、特異的プライマーを設計し、trans-AT KS同様にスクリーニングに利用する。KS及びpyran synthase両方を用いたスクリーニングによって、より確実にspongistatin生合成遺伝子のクローンを得ることができると考えている。Spongistatin生合成遺伝子は100 kbを超えることが予想されるため、複数のフォスミドクローンを得て、挿入配列をつなぎ合わせることで、遺伝子クラスター全長の配列を明らかにする。配列情報が得られれば、バイオインフォマティクス解析によってモジュールの構成を予測し、spongistatinの骨格形成過程と矛盾のないことを確認する。さらに、生合成遺伝子クラスターであることが明らかになれば、海綿に共生する生産菌を遺伝子ベースで特定する。これらの方策によって、抗がん剤として有望な海綿由来細胞毒性物質の真の生産者を明らかにするとともに、量産化へ向けた基礎的知見を得る。
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Research Products
(17 results)