2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H00032
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Research Institution | 古美術修理すぎもと |
Principal Investigator |
杉本 和江 古美術修理すぎもと, 職員
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Project Period (FY) |
2017
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Keywords | 在地 / 鋳物 / 生産用具 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、銅・鉄鋳物製品によって、地域の生活と生業を支え続けた在地鋳物業について、鋳物業者(鋳物師)自らが記した生産の記録をもとに、地域社会の中で果たした役割を明らかにする事にある。研究実施にあたっては、近江の太田家、越前の清水家、河内の田中家を対象とし、鍋釜・犂先などの量産品と各家独自の製品について、生産記録の調査と製品の探査を行い、データ化した。 三家ともに、銅鉄兼業で、鍋釜などの鉄製品、生産量の多少は有るが、銅鐘などの鐘類も生産していた。生産記録の書式や遺存状況は一様ではないが、記録を比較する事により、その有効性と限界を知る事が出来た。 太田家の生産記録からは、鍋釜と犂先が主力製品で有った事が伺える。18世紀後半以降の近江では、牛馬の所有数が激減するとされるが、記録を見る限り犂先の生産高には、多少の落ち込みは見られても、特に顕著な変化は認められない。これは、太田家の製品が広範囲に取引されていたため、地域内の需要に影響されない面が有った、と推定している。 清水家の生産記録も太田家とほぼ同時期。当時、越前が犂耕であるかは問題だが、記録には犂先は見当たらない。太田家と同様に、多様な需要に細かく対応しており、特に鍋釜に関しては、製紙用(産業用)と推定される「紙釜」「蒸釜」が見られた。 田中家には多種多様な犂サキ・犂ヘラの型が現存しており、主力製品として重視されていた事がわかる。犂耕の盛んな地で最も需要が有り、競合する生産者もいる事から、変化する需要に答えていたのではないかと考えられる。 在地鋳物業者は、流通が拡大する事で、地域的な需要に左右されない生産が可能になる。一方、新たな農業技術や製品の流入も加速し、その変化する需要に追われる事となる。最終的には、主力製品は悉く、安価で軽いアルミ鍋に、犂は耕運機に取って代わられ、地域社会での役割を終える事となる。
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