2017 Fiscal Year Annual Research Report
低体温症関連死における死後診断法の新規開発-腎糸球体HSP70発現のメカニズム
Project/Area Number |
17H00605
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Research Institution | 兵庫県警察本部刑事部科学搜査研究所 |
Principal Investigator |
櫻田 誠 兵庫県警察本部刑事部科学搜査研究所, 警察研究職員
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Project Period (FY) |
2017
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Keywords | 低体温症 / 心房性ナトリウム利尿ペプチド / 熱ショックタンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、死体解剖で明らかとなる形態学的所見が乏しいために、死因の判断が困難な低体温症関連死における新たな診断法の開発を目指すことを目的とした。そのために、寒冷刺激による心房性Na利尿ペプチド(ANP)の発現及び腎糸球体におけるHSP70発現とアクチン構造の変化について検討した。 法医剖検例30例について、その死亡に至った環境温度から寒冷群14例(凍死、屋外溺死)、非寒冷群16例(虚血性心疾患、急性薬物中毒死、頭部外傷等)に分類した。剖検時に、視床下部、心筋(左右心室及び心房)及び腎臓を採取し、抗ヒトANP抗体を用いた免疫染色を行った。 この結果、死亡環境温度群及び死因に関わらず、いずれの試料においても左右心房において非常に強い発現が認められた。一方心室では、正常な状態ではANPはほとんど産生されないことが知られているが、本研究において、寒冷群試料及び非寒冷群試料のうち心疾患による死亡例において、左心室の心内膜側乳頭筋において比較的強い発現を認め、右心室においても局所的に発現を認めた。一方、腎臓及び視床下部では、ANPの発現はほとんど認められなかった。 腎臓における抗アクチン抗体による免疫染色では、近位尿細管刷子縁や遠位尿細管上皮細胞で発現を認めた。HSP70は寒冷暴露マーカーとして、寒冷群の腎糸球体上皮細胞の核で強発現していたが、アクチン構造との関連性を見いだすことは出来なかった。 以上の結果、本研究では様々な剖検事例において視床下部、心筋及び腎臓におけるANP発現及び腎臓におけるアクチンの、組織における発現部位及び発現強度を明らかにした。心室においてANPは、寒冷群及び非寒冷群心疾患症例でよく発現していることから、寒冷環境での死亡では、心疾患死亡例と同様の強いストレスが、特に左心室において働いている可能性が示唆された。今後のさらなる検討により、低体温症における心機能変化を明らかにする手がかりになるものと期待される。
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