2018 Fiscal Year Annual Research Report
The universal value creation of medical inheritances: establishment and practice of comprehensive preservation methodology of "medicine chest"
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17H00832
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
高橋 京子 大阪大学, 総合学術博物館, 准教授 (00140400)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 幸一 武庫川女子大学, 薬学部, 教授 (00179483)
植田 直見 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)
御影 雅幸 東京農業大学, 農学部, 教授 (50115193)
雨森 久晃 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (70250347)
松永 和浩 大阪大学, 適塾記念センター, 准教授 (90586760)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 保存科学 / 薬学 / 麻薬 / 非破壊分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本薬物文化の意義を明確にするため、日本における近代医学の確立に主導的役割を果たした適塾・緒方洪庵の薬箱(2点)を主ターゲットとした本研究は、①薬箱収納容器の材質調査/資料の数値化並びに保存環境の最適化、②麻薬等規制対象物の鑑別と継承保存、③収納物の非破壊的品質評価と蛍光指紋イメージングを導入した新規非破壊的生薬基原鑑別法の開発、④本草学的視座で実地臨床の情報化を課題とする。医療文化財という新規のカテゴライズで、薬箱を構成する実体物(容器・薬物・器具類)は、江戸期の蘭学等洋学の受容から生み出された高水準の医薬知識・技術が具現化したものとして、製剤技術や洪庵の治療観に迫る実地臨床解析が可能である。平成30年度は、前年度に引き続き、破損・劣化で迅速な保存対策を要する晩年期使用の薬箱において、デジタルマイクロスコープの三次元計測機能を駆使した立体構造測定と近世のガラス素地製造や技法に関する悉皆調査から比較解析した。今回の検証より、洪庵が多様な剤型(アルコール製剤、油、水溶液他)の医薬品保存に液体の気密性や固体の防湿に有用なカリ鉛ガラス製容器を使用したことを、複数の観点から明確にした。ガラス製瓶(22本)中、開栓可能瓶は9点のみで液性は弱酸~中性を呈したが、近世ガラスの材質劣化対策として内容物を耐久性の高い容器に移動した。ガラス瓶15本、木製容器6本に記載された漢字1文字の独自略称名から関連文書の網羅的解析し、考察した。特に「阿」には暗黒褐色の固形物が現存した。実地臨床を示す扶氏経験遺訓等に「阿」関連製剤17件を確認後、比較検証した結果、性状特性や使用頻度から阿片(阿芙蓉)の可能性が高いと推察した。一方、壮年期薬箱由来生薬基原について、歴史検証とデジタルマイクロスコープによる形態特性解析から新知見の生薬を10種発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本草学的視座に基づく生薬資料の薬史学的価値並びに評価法の確立に対する成果は文理複合領域のため、適切な論文投稿先が乏しく、論文投稿が遅れているが、各領域の学会及びシンポジウムにて研究成果を発信している。
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Strategy for Future Research Activity |
(課題1)薬箱構成資料の可視化 と保存環境の最適化:前年度に続き、薬箱内容物の保存容器の材質調査には、元興寺文化財研究所と連携して実施する。江戸中期の森野旧薬園所蔵石薬標本容器(色ガラス皿)について、非破壊的分析ツールとして蛍光X線分析装置及びX線装置によりガラス材質を比較解析する。組成の材質・耐液性に基づき、内容液への影響や移動の適切な保存方法を検証する。 (課題2) 製剤化された麻薬等規制対象物の鑑別と継承保存:前年度に引き続き、貴重標本(証拠標本)から入手した資料の詳細構造に基づく形態学的特性から鑑別マニュアルを作成する。個体差の著しい植物形態を理解し、時代に対応した法改正や規制・取締りの実践には、実体物の鑑定・判別技術と活用できる人材育成が必要となるため、地域博物館・資料館を取材調査し、有用な麻薬規制対象物の保存対策の啓発活動ならびに、所蔵施設に応じた対応策を検討する。特にあへん法対象物の判明後は保存作業がより厳格となるため、製剤化された医薬品(近世~戦前)に関する取扱い・保存方法について取材や意見交換を行い、情報提供方法を検討する。 (課題3)製剤化された収納物の非破壊的品質評価に基づく技術解明:壮年期薬箱には丸剤、晩年期薬箱にはガラス瓶に入った水剤と製剤化された医薬品が納められているが、洪庵独自のもので、内容物の詳細な処方等については推測の域を出ない。開栓可能なガラス瓶は、内容物の移動について検討する。その際に出る器具廃棄物から内容物組成や製剤技術について非侵襲的方法の構築を検討する。 (課題4)実地臨床の歴史検証による伝統知の情報化:上記課題解析と並行し洪庵の治療実践を検証する。幕府奥医師期の「勤仕向日誌」は病態把握が容易で、特に未知の感染症に対する治療観や麻薬系医薬品の有効症例記録歴は温故知新の医療情報として貴重であることから、現医療への応用性を考察する。
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Remarks |
2019年春季展覧会企画・主催 「森野旧薬園の守人たち~歴代藤助と薬業創業者の里~」開催(2019年3/31~6/9 国指定史跡 森野旧薬園 資料室) 毎日放送制作:映像'18 「薬草のタイムカプセル」~奈良・森野旧薬園の四季~ (1時間番組)2018年9/30放送 撮影取材協力
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Research Products
(22 results)