2019 Fiscal Year Annual Research Report
Effects of High Frequency Tradings on Efficiency and Stability of the Foreign Exchange Markets: Analysis using High-frequency Data
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17H00995
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
伊藤 隆敏 政策研究大学院大学, 政策研究科, 特別教授 (30203144)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 昌弘 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (60732435)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 為替レート / 高頻度データ / マクロ統計 / 流動性 / プライス・ディスカバリー / 裁定取引 / 仲値 / マイクロストラクチャー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、外国為替市場における高速頻度取引(high-frequency trading)の発達が市場の効率性と安定性にどのように影響しているかを実証的に明らかにすることである。データは電子ブローキングシステム(EBS社)の中に蓄積される、高頻度(100分の1秒単位)の大量のデータを使用する。本年度(2019年度)は昨年度(2018年度)における研究の推進方針に従って、マクロ経済指標時における為替レートの変動について、指標発表のサプライズが為替レートへ織り込まれていく速さを計測することで市場の質を評価するという観点から、論文を執筆した。電子ブローキングシステムの発展と高頻度取引の活発化により市場の質が高まっているという一般的な予見に対し、この論文では、指標発表後にすぐに取引を始めるような市場参加者は、流動性は提供しているものの、必ずしも価格の発見には寄与していないという結果を、理論・実証を交えて報告している。この結果は、高頻度取引が必ずしも常に市場の効率性と安定性に寄与しているわけではないという含意を与える。 年度の後半には論文の執筆に並行して学会等で発表して、研究成果の伝播と議論を深めることに努めた。国内学会として金融学会・ファイナンス学会で報告し(10月、11月)、国際研究集会としては滋賀大学の主催するRESUUで報告した(11月)。また12月にGRIPSで研究集会を主催し、アメリカとヨーロッパから二名の学者(Prof. M. Evans、 Prof. D. Sornette)を招待し、論文についての議論を深めた。特にEvans教授は国際金融分野、特に為替市場分析の第一人者であり、板情報を用いた新たな実証モデルについての講演のほか、当該論文についても重要な指摘を受けた。これらの研究集会における議論を論文に反映させ、年度末にワーキングペーパーとしてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
外国為替市場で、コンピューターが売買注文をマッチングするようになって、30年以上が経過した。注文を出す銀行側も、コンピューターに搭載されたプログラム(アルゴリズム)にしたがって、自動的に発注するようになってから十数年経過した。市場構造が大きく変わり、市場は効率的になったかを、高頻度データを用いて、検証するのが、本プロジェクトの大きな流れである。今年度は2つの研究方向で進展があった。第一に、負のビッド・アスクあるいは三角裁定の機会が発生する頻度、継続時間の研究を進化させて、その裁定利潤機会は取引を行おうとした場合に利潤を獲得できたか、という実行リスクを検討した。その結果、アルゴリズム取引が普及する前には、可能であった利潤を得る取引が、次第に不可能になっていったことが分かった。この問題について外国為替市場のデータを使った実証論文は少なく、大きな研究の進展である。第二に、マクロ統計(たとえば、GDP、雇用統計)が、発表される瞬間に、発表数字が予想と異なる場合に、外国為替レートが大きく反応することがある。ニュースの予期されていなかった部分が市場の変数を動かすことは、定性的によく知られているが、その反応がどの程度の速さで新しい均衡に収束していくか(プライス・ディスカバリー)、その収束過程で流動性は十分供給されているか、の分析は行われてこなかった。この点について研究の進展があった。アルゴリズム取引が盛んになるにしたがって、プライス・ディスカバリーは確かに速くなったが、流動性は必ずしも多く供給されているわけではない、ということが明らかにされた。これは、高頻度データを用いることで初めて発見されたことと言える。このような成果をあげることができたので、予定どおり研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度進展のあった、三角裁定の実行リスクの研究と、ニュース発表時のプライス・ディスカバリーの速さと流動性変化の研究を、査読付きジャーナルに掲載するように努力する。また、新しい研究課題に取り組む。第一に、外国為替市場では、しばしば短時間のうちに、急激に為替レートが変動することがあるが、そのメカニズムを解明する。とくに、買い指値、売り指値がヒットされて取引が成立するのか、取引がないままにキャンセルされるのかを区別するデータが入手できれば、高頻度取引のディーラーの行動パターンについての分析を行う。高頻度取引が、市場を安定化させているのか、それとも変動性を高めているのかの分析を行う。これまでの研究と関連付けを行うことで、マイクロストラクチャーの変化と市場の効率性の変化を判断することが出来るようになる。そこから、マーケット・マイクロストラクチャーの変遷にともなって、政策当局の監視の手法も変化しなくてはいけないことが導かれる。
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Research Products
(8 results)