2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Designable Hybrids Based on POSS Element-Blocks
Project/Area Number |
17H01220
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中條 善樹 京都大学, 工学研究科, 名誉教授 (70144128)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 一生 京都大学, 工学研究科, 教授 (90435660)
権 正行 京都大学, 工学研究科, 助教 (90776618)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | POSS / ハイブリッド / イオン液体 / フィラー |
Outline of Annual Research Achievements |
A.デザイナブルハイブリッドによるイオン性ネットワーク開発 シリカの立方体構造を有するかご型シルセスキオキサン(POSS)骨格の8頂点に対してカルボキシル基を修飾し、イミダゾリウムカチオンを作用させ、イオン液体を合成した。このイオン液体はPOSSの立体的効果により8価という多価のアニオンであるにも関わらず、室温でイオン液体の性質を示す。このイオン液体に対して、段階的に二官能性イミダゾリウムカチオンを添加することにより、イオンネットワーク化を試みた。その結果、割合にしてわずか1.25%の二官能性イミダゾリウムカチオンの増加に対して、ガラス転移温度が-52度から-15度まで37度も増加することが分かった。比較対象として、3価のアニオンであるクエン酸をPOSSアニオンの代わりに用いた場合、50%の二官能性イミダゾリウムカチオンの増加に対して、ガラス転移温度が-59度から-36度まで23度の増加にとどまった。また、POSSアニオンを用いることで大幅に分解温度が向上することが分かり、イオンネットワークの課題である熱安定性の低さを克服することができた。 B. 分子フィラーによる相反関係両立とデザイナブルハイブリッドの適用範囲の拡大 高分子材料の改質のためフィラーを加える手法が実践されているが、一般的に耐熱性が低下してしまう問題が指摘されている。POSSはシリカの立方体構造から成る無機骨格であり、耐熱性を損なうことなくフィラーとして利用できる。当該年度の研究では、原子屈折率の高いハロゲン(Br, I)を置換基に有するPOSS誘導体を合成し、フィラーとして用いることでポリスチレンフィルムの高屈折率化を行った。その結果、ポリスチレンフィルムに対してPOSS誘導体を添加することで、透明性や耐熱性を損なわずに屈折率を向上させることに成功し、屈折率と耐熱性の相反関係の両立を実践することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
イオン性POSSネットワークの合成に関しては、立方体状の無機骨格であるPOSSを利用することで分解温度の上昇という耐熱性の向上を獲得できたのは予想通りであった。それ以上に、8官能性アニオンの特徴として、二官能性のイミダゾリウムカチオンの添加量を0%~100%まで変化させた場合、ガラス転移温度の変化量が-52度から7度まで59度の非常幅広い範囲で調節可能であることが判明した。1官能性のものでは変化幅は-35度から-8度まで27度、3官能性のものでは変化幅は-59度から-19度まで40度であった。さらに、8官能性のPOSSアニオンの場合、1.25%の二官能性イミダゾリウムカチオンの増加に対して、ガラス転移温度37度も増加することから、わずかな添加量で大きな効果を生み出せることが分かり、予想以上の結果で動的なイオン性ネットワークの物性を考慮する際の重要な結果であると言える。 分子フィラーによる相反関係両立のテーマでは、原子屈折率の高いハロゲンである臭素(Br)やヨウ素(I)を修飾したPOSSが耐熱性と高屈折率を両立する有効なフィラーとして機能することが分かり、合成も簡便かつ透明性も確保できるため、汎用的な手法になるのではないかと期待している。ハロゲンを修飾しないフェニル基のみのPOSSを添加した場合では透明性が約20%程低下してしまうため、ハロゲン化という単純な手法が高屈折率フィラーとして利用する際の多くの問題点を解決してくれることは期待以上の成果であった。 以上の結果より、研究が計画通り進行しているとともに得られた結果については予想以上に興味深い知見が得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究領域で得られたデナイナブルハイブリッドの機能をさらに追及するため、C,Dの課題に取り組む。 C. 耐熱性メカノクロミックルミネッセンス(MCL)材料の開発 POSS骨格を基盤とした、機械的刺激により発光色が変化する現象(MCL)の研究を行う。MCL色素は微小領域や細胞内などの力を計測できる手法として有用性が高い。しかし、応力と同時に摩擦熱も生じ、MCL色素の熱変化が問題となり、純粋な応力計測のため耐熱性が必要とされている。熱安定性の向上のために分子間相互作用を強めると発光色変化も抑制されることから、これらは相反関係にあり両立が難しい。そこでPOSS骨格により分子の乱雑さを低下させ、耐熱性を付与する戦略を着想した。具体的には、POSS骨格の各頂点に既知の固体発光性色素を配置することで、色素の熱運動抑制による相転移温度の上昇と、空間確保による分子間相互作用の形成を同時に達成することで、耐熱性MCL材料の開発を行う。 D. 剛直性を利用した19F MRプローブによる微量生体物質計測 POSS骨格を利用した19F MRプローブを設計し、触媒活性の無い生理活性分子の微量検出を目指す。フッ素化化合物をプローブとした19F NMRは、生体分子の計測において高いS/N比が得られることから、生体反応や環境変化の定量的な計測に有用である。一方、検出感度の低さから、微量の物質の計測は困難である。そこで、常磁性金属錯体を連結した水溶性高フッ素化POSSをプローブとし、標的分子の認識で会合させ、磁性緩和効果の増幅による感度の向上を図る。具体的には、水溶性高フッ素化POSSに常磁性金属錯体を連結したプローブ分子の合成を行い、高フッ素化POSSからの19F NMR信号が大きく低下を検出することで感度の向上を達成する。さらには、感度・生体親和性・水中での安定性など、情報をフィードバックして最適化を検討する。
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