2017 Fiscal Year Annual Research Report
下水処理プロセスを担う原生動物の代謝基盤の解析と微生物間代謝ネットワークの解明
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17H01901
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
新里 尚也 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (00381252)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 嫌気環境 / 原生動物 / 細胞内共生 / ゲノム解読 / 脂肪酸合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、下水処理プロセスより長期培養に成功した数少ない原生動物株である、トリミエマ原虫を用いて、その生物活性を支えていると考えられる共生微生物の役割について明らかにすることを目的としている。本年度は、これまでに全ゲノム解読に成功している、トリミエマ原虫のバクテリア共生体TC1について、詳細なゲノム構造の解析を行うことでこの共生関係の代謝基盤の推定を行った。 その結果、本共生体のゲノムは極めて縮退しているものの、アミノ酸酸化により得られた還元力をRnf複合体により膜ポテンシャルに変換し、膜ATPaseによりエネルギーを獲得していることが示唆された。また、特筆すべき点として、TC1共生体は脂肪酸合成酵素の遺伝子群(fabオペロン)を保持している一方で、脂肪酸の分解遺伝子群をほぼ完全に欠いていることが明らかとなった。さらに、fabオペロンの構造を近縁の種と比較解析した結果、TC1のfabオペロンには、通常存在する転写リプレッサーが存在しないことが示され、TC1共生体が脂肪酸合成酵素群を恒常的に発現して、脂肪酸あるいはその派生物(例えばリポ酸)を活発に合成している可能性があることが推察された。 トリミエマ原虫は嫌気環境に適応しており、ミトコンドリアを持っておらず、代わりに起源を同じくするヒドロゲノソームを保持している。真核生物では脂肪酸のde novo合成はミトコンドリアで行われており、ヒドロゲノソームでは行われていない。同じくミトコンドリアを欠いているGiardia等の原虫は生育に脂肪酸を外部環境から取り込む必要があることを考え合わせると、TC1は宿主であるトリミエマ原虫が必要とする脂肪酸を体内で合成する役割を担っている可能性が伺われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の申請当初の計画では、研究計画初年度(H29年度)はトリミエマ原虫の細胞内共生体TC1の解読ゲノムを詳細に解析することを予定しており、研究実績の概要で記したようにTC1の機能推定はほぼ完了したと考えられる。現在、これらの解析結果を論文にまとめており、H30年度中に投稿予定である。 その一方で、研究実績には記載できなかったものの、予定していたトリミエマ原虫のRNAseqデータを取得済みであり、H30年度はこれらを解析することで、トリミエマ原虫の代謝基盤や、2つの共生体(TC1ならびに共生メタン生成菌)との相互作用について推察する材料を得られると期待している。 また、トリミエマ原虫に加え、沖縄県内の下水処理施設より新たな嫌気性原生動物を培養することに成功した。本原虫はトリミエマ原虫より一回り小型で、蛍光顕微鏡観察により、トリミエマ原虫と同様にメタン生成菌を細胞内に保持していること、また、DAPI染色によりバクテリア共生体も保持している可能性が示唆されている。今後、この原虫における共生関係を調べていくことで、下水処理プロセスにおいて機能している嫌気性原虫の代謝様式の多様性を明らかにして行くことができると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、トリミエマ原虫の細胞内に共生するバクテリア共生体、TC1の役割についてはおおよそ推定することができた。これまでの結果から細胞内小器官であるヒドロゲノソームが担えないde novo脂肪酸合成を行っていることが考えられた。しかしながら、この点については宿主側からの検証も必要であり、昨年度までに得られている宿主RNAseqのデータを解析することにより、TC1共生体の寄与について確認していく予定である。 また、もう一方の共生体であるメタン生成菌については、これまでにも嫌気性原生動物の細胞内に共生している例は数多く報告されているものの、種間水素伝達以外の相互作用に関する知見は得られていない。しかしながら、別の種のトリミエマ原虫では共生したメタン菌が原虫の細胞内で形態変化する現象も報告されており、単に水素の授受だけではない相互作用が存在する可能性もある。これらの点をより明らかにするこを目的に、TC1と同様な手法により共生メタン菌のゲノム解析も進めて行く。 これらの研究推進により、トリミエマ原虫とその細胞内に生息する2つの共生体の代謝ネットワークや、相互作用、細胞内共生による共生体のゲノム進化に関する知見などが得られ、不溶性有機物の分解とメタン生成を効率的に行う、原生動物共生系の全容を明らかにすることができると期待される。
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