2017 Fiscal Year Annual Research Report
近代満洲における技術導入と社会変容:在地社会と植民社会の相互作用に着目して
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17H02010
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
上田 貴子 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (00411653)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小都 晶子 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (00533671)
猪股 祐介 特定非営利活動法人社会理論・動態研究所, 研究部, 研究員 (20513245)
佐藤 量 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (20587753)
蘭 信三 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (30159503)
坂部 晶子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (60433372)
永井 リサ 九州大学, 総合研究博物館, 専門研究員 (60615219)
西澤 泰彦 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (80242915)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中国東北 / 農業 / 医療 / 移民 / 人口管理 / 技術導入 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の準備段階でおこなってきたワークショップの成果を『近現代東北アジア地域史研究会ニューズレター』に掲載することで、公開した。またそこから研究を本格的に推進するために、分担者・協力者が各自で史料調査を進めた。その過程で農業・畜産部門についての雑誌『畜産満洲』についての知見が「『畜産満洲』―所蔵と記事目録―」として発表された。 研究の途中経過を紹介し知見の交換の機会として12月17日(上智大学)ワークショップ「人を管理する技術:労働管理者の事情・労働者の事情」を開催。3月10日~12日(近畿大学)「モノと技術の伝播と普及」と題してプレミーティング、ワークショップ、フィールドワークからなる連続企画を実施した。この過程で当初のメンバーの枠を超えて、高野麻子氏、衣保中氏、林志宏氏、平井健介氏、サイジラホ氏、飯島真里子氏らとの間で、研究について意見を交わすことができた。 個別にはキンウィが1月21日(大阪商業大学)中国現代史研究会1月例会で「日本における満洲の牧羊調査及び綿羊改良事業の方策――軍部と満鉄を中心に――」と題して、本科研の成果の一部を報告した。 これらを通じて得られた現時点での見通しとしては、在地社会には在地社会なりの生活環境に対応した人間・動物・植物にどう対応するかというノウハウの蓄積が存在し、一定の合理性があることが確認された。植民者が近代的な技術を導入しようとしても、在地の環境に対する理解がない場合には、定着しない。そのなかで、在地のノウハウの中から取捨選択が行われ、在地の技術と植民者の技術の結合があり、ブレイクスルーが生じている事例も確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年5月26日(上智大学)29日(名古屋大学)、分担者・協力者とのキックオフミーティングを行い本課題の実施について合意をとった。その後、各自調査・研究を進めた。研究協力者のキンウィは雑誌『畜産満洲』について調査を行うとともに、東部内モンゴルにおける綿羊改良事業について調査を実施した。また上田は『奉天警甲彙報』などの警察関係史料を分析し在地勢力による社会管理について調査をすすめた。小都は開拓地の衛生に関する調査を行った。研究内容の部分的な発表としては12月17日(上智大学)「人を管理する技術:労働管理者の事情・労働者の事情」と題してワークショップを開催した。そこでは高野麻子氏による日本の労働者管理の技術の報告をうけ、中国在地勢力はどのように人間を管理しようとするのか(上田)、また管理される人間はどのように対応しているのか(菅野)、という本科研チームによる知見を照らしあわせて、在地社会と植民者のせめぎあいについて議論を行った。2018年3月10日~12日(近畿大学)「モノと技術の伝播と普及」と題してプレミーティング、ワークショップ、フィールドワークからなる連続企画を実施した。1日目には同じく日本が植民者として在地社会に影響を与えた台湾の事例を参考にすべく、台湾研究者との議論を行った。2日目は中国中山大学のサイジラホ氏を招聘し、内モンゴルにおける伝統医療および近代医療への以降について知見を披露いただいた。3日目は大阪市中央区道修町にて、製薬会社などの資料館をめぐり、日本の製薬業の近代化とその海外への影響について考察を行った。3月には台湾で国史館・中央研究院近代史研究所档案館に所蔵される中華民国の史料の公開状況について予備的調査を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に行った3回の全体でのミーティングおよびワークショップを通じて、人の命や生活様式に影響を与える医療、自然環境と食を中心とした生活様式に影響する農業、労働力動態と社会の流動性にかかわる人間の管理の3つの分野を重点的に分析する方向性が見出された。2年目は社会班の研究の推進を目的として月例勉強会を行う。同時に中国・台湾・アメリカなどの海外の研究者との連携を積極的に推し進める。12月には中国・台湾の研究者を招聘しワークショップを実施する。とりあげるテーマは「農業技術と環境」とする予定である。これにより、医療・農業・人間の管理それぞれについてワークショップが行われ一定の知見が出そろうはずである。これをもとに、3年目には3つの分野に通底する「近代性」をもった技術の導入とそれによる社会変容に関する仮説のより緻密な検証を行う。 これまでは、植民地社会が戦後に解体した後に、在地社会に残ったものがあるという継承が強調されがちであったが、実態としては継承ではなく、技術融合の結果として新たな段階といえるのではないか。この点をより詰めていきたい。また今後の予定として、在地社会と植民者社会の相互作用として、植民者の内に外地における経験を踏まえたことによる変化もあるはずであり、この点への考察を深めていく予定である。 史料については、中華人民共和国の档案館での史料閲覧状況が厳しくなるなか、台湾で管理され現在整理が進められている史料にも期待できるものがあることが判明した。今後は台湾に存在する資料なども使用することを検討している。またすでにデジタル化されるなどして、市販されている1920年代30年代の定期刊行物も分析対象とし、史料を補っていく。
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Research Products
(7 results)