2019 Fiscal Year Annual Research Report
近世期挿絵本や絵本にあらわれる画題の変遷による近世挿絵史の再構築
Project/Area Number |
17H02311
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 悟 実践女子大学, 文学部, 教授 (50178729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 仁 同朋大学, 文学部, 教授(移行) (20103153)
上野 英子 実践女子大学, 文学部, 教授 (60205573)
松原 哲子 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (70796391)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 画題 / 絵本 / 読本 / 合巻 / 道中双六 / 浄土双六 / 考証随筆 / 柳亭種彦 |
Outline of Annual Research Achievements |
画題研究に重要な位置を占める合巻や読本の口絵の研究を進めた。合巻や読本の口絵が発生するのは文化元年ごろで、読本が合巻に先行している。従来の研究では合巻の口絵が読本の影響を受け、読本は水滸伝などの中国小説の繍像の影響の下に口絵を発展させたと理解されてきた。ところがそれだけではなく、口絵の発生には読本、合巻の絵本化という問題が密接に関わっていることがパリ国立図書館、ギメ美術館の調査から判明した。さらに文化元年の彩色摺禁止令から、読本、合巻の口絵における薄墨使用の問題が生じてきた。文政期に江戸で出版された根本は江戸用と上方用の二種類があり、色摺で刊行された『役者夏の富士』が上方用の役者絵本として刊行された可能性が出てきた。天保期の人情本の口絵も初摺本、もしくはそれに近い本の口絵は薄墨、艶墨が利用され、色摺が控えられていることもこの仮説を裏付けるものである。 『偐紫田舎源氏』の研究を進め、『偐紫田舎源氏』の後継作で競合関係にあった『其由縁鄙面影』と『足利絹手染紫』の刊行事情を調査し、源氏絵と呼ばれる浮世絵の成立事情が朧気ながらも明らかになった。特に源氏絵は従来これらの合巻作品の構図を単に利用したと考えられてきたが、そうではない例が多出し、あらたな解釈が必要となった。 柳亭種彦の随筆における挿絵の研究を行った。特に随筆に引用されている画像の原拠研究を行った結果、19世紀における画像研究の実態が明らかになった。 双六の挿絵道中双六、名所絵としての確立浄土双六、双六の上がりに描かれた仏像が立像と座像の二種あることが判明した。また熊野系の双六はおそらく浄土双六の影響を受けたもので、宗派ごとに独自の画題を齣絵に使用したことが明らかになった。この浄土双六が印刷され、18世紀中期の江戸においては双六の印刷は地本問屋によって行われたことが判明し、画題のあり方に新たなテーマを与えることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究分担者が多忙になり、研究会の時間の設定が難しくなったこと。研究協力者が就職その他により分散したことが挙げられる。 多方面の研究を同時に行い、概要に記したように新発見が相次いだために、研究が分散し、執筆が遅くなっている。一昨年の学会等の口頭発表も活字化されておらず、重要な問題であることは認識している。 また新型コロナウィルスの流行により、上記の研究会の実施が困難となった。
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Strategy for Future Research Activity |
文化元年の彩色摺り禁止令の影響を考えるとき、色摺りで刊行された上方読本、根本の研究を進める必要がある。また当初、色摺で刊行された『青楼年中行事』『福鼠尻尾太棹』等の作品が薄墨を使用した後摺本として刊行された事象について研究を進める。特に『福鼠尻尾太棹』は板元が代わり、複雑な刊行事情を有している。これを解明することは大きな意味を持っている。また『青楼年中行事』は『福鼠尻尾太棹』等と異なり、江戸のみで流通した本であるので、両者の比較も新たな事象の発見へ繋がる可能性がある。概要でも記した江戸で刊行された上方向けの絵本の研究を進める。これにより上方の画題と江戸の画題について考察を深めることが可能になると予測される。 『偐紫田舎源氏』、『其由縁鄙面影』、『足利絹手染紫』らと源氏絵の関連についての調査を進める。数百点に及ぶ源氏絵のデータを集めたので、それらを全体として解析することも必要である。 研究の遅延を回復するため、Zoomを使用した新たな研究会の方向を模索している。既にフランスの研究者とは3回の合同研究会を実施している。これをさらに推進していく予定である。 最終年度であるため、奥村政信、鈴木春信の浮世絵と狩野派の絵手本との関連を、大岡春卜を中心に実施する。
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