2018 Fiscal Year Annual Research Report
交流電場下での強誘電体の時分割構造解析による誘電緩和現象の動力学可視化
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17H02776
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
黒岩 芳弘 広島大学, 理学研究科, 教授 (40225280)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大沢 仁志 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (00443549)
和田 智志 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60240545)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 誘電体物性 / 物性実験 / X線 / 超精密計測 / 構造・機能材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
交流電場下で,誘電体の分極が電場の時間変化に対応できなくなり誘電緩和状態にある瞬間の原子配置を時間分解X線結晶構造解析で明らかにし,動的誘電物性の発現機構を電場による原子変位の動力学から議論する研究基盤を確立することが本研究の目的である. 本研究では,研究代表者の黒岩(広島大学)と研究分担者の大沢(JASRI/SPring-8)および和田(山梨大学)が,互いの得意分野で協力し,研究を推進した.黒岩は強誘電体の放射光構造物性研究の専門家であり,本研究を統括した.大沢は時分割計測が得意分野であり,独自に開発したX線チョッパーを用いて時間分解X線結晶構造解析実験を行った.和田は強誘電体・圧電体材料合成の専門家で,新奇な非鉛強誘電体・圧電体を合成し,電気物性を評価しながら実験用単結晶試料の準備を行った. 本年度は,研究の目的を達成するために,①リラクサー等強誘電体の時分割構造解析と②非鉛圧電体の時分割構造解析の2つの研究課題を行った.①では,黒岩,大沢が協力して今年度の予算で,高速高電圧アンプシステムを導入し,AC電場印加下で,強誘電体や圧電材料に対して時間分解X線結晶構造解析実験をSPring-8で行った.特に,鉛を含むリラクサー強誘電体では,AC電場の周波数によって結晶構造が著しく異なることを初めて観測した.①の課題と並行して,②の課題では,和田が中心となって,鉛と似た性質をもつビスマスを含む新奇な強誘電性をもつ圧電体単結晶材料の育成に成功した.SPring-8において黒岩,大沢,和田で結晶構造を評価したところ,これまでにない新しい仕組みで分極状態が発現することを見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①リラクサー等強誘電体の時分割構造解析について,初年度および本年度で,計画通り,大学で試料加工するための環境や予備的なX線構造解析実験をするための実験装置の整備,ならびに,SPring-8において電場印加下で時間分解X線結晶構造解析実験が効率よく行える環境の整備を達成した.大沢の開発してきたX線チョッパーシステムと高速高電圧アンプシステムの組み合わせがうまく機能し,いくつかの圧電材料について国際誌などで研究成果を発表することができた.一方,最大の目的である誘電緩和状態にある瞬間の結晶構造の解析については,鉛を含むリラクサー強誘電体において,AC電場の周波数によって結晶構造が著しく異なることを見出すことに成功した.しかし,まだこの成果について論文共表の段階まで達成できていない.したがって,①については,おおむね順調に進展していると評価すべきと考える. ②非鉛圧電体の時分割構造解析について,和田が非常にユニークな圧電特性をもつ単結晶材料の合成に成功した.鉛と似た性質をもつビスマスを含む材料であり,ビスマスイオンの特異なゆらぎが誘電特性と大きく関係していることをSPring-8での構造解析により明らかにした.その成果については一部を論文や学会などで公表した.また,他の物質系についても,特定のイオンの構造ゆらぎと物質機能あるいは相転移との関係について調べ,論文や学会などで公表した.しかし,最も興味深い圧電特性をもつビスマスを含む材料については,電場印加下での時間分解X線結晶構造解析実験を行うにはまだ結晶サイズが小さく十分ではない.②については,おおむね順調に進展していると評価すべきと考える. したがって,全体として,おおむね順調に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,①と②の研究課題を継続して行う. ①について,鉛を含むリラクサー強誘電体で得られた成果を精査しまとめ,国際誌などへ投稿する準備を行う予定である.必要があれば検証実験を行う.一方,②とも関連して,他の物質系についても,特定のイオンの構造ゆらぎと物質機能あるいは相転移との関係について調べてきた.これらの物質についても誘電緩和が観測されるので,電場印加下で時間分解X線結晶構造解析実験を行うことを検討する. ②について,ビスマスを含む材料については,現状が0.2mmくらいのサイズの単結晶しか得られていない.電気測定ができ,電場印加実験のできる1mm程度のサイズの単結晶育成を目指して努力する.成長条件を最適化することで達成可能と考えている. 最終年度では,電場印加下での構造計測に関する最新の情報を国際会議や国内学会などで収集しながら,得られた成果を可能な限り早期に公表することを目指す.
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