2018 Fiscal Year Annual Research Report
Deciphering the evolution history of volatile elements toward the formation of the water-planet, recorded in lunar potassium feldspar
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17H02992
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
橋爪 光 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (90252577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山中 千博 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (10230509)
藤谷 渉 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 助教 (20755615)
掛川 武 東北大学, 理学研究科, 教授 (60250669)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 月隕石 / 揮発性元素 / 起源 / アンモニア / カリ長石 / イオンインプランテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
月は、月-地球系の一部を構成する重要な天体である。月岩石中に水が含まれることが近年明らかになり、月の研究から水惑星・地球の出自を解明できるかもしれない、と考えられつつある。本研究では、月火成岩中カリ長石に捕獲された窒素・水素同位体組成を求めることにより、形成初期の月・岩石圏における揮発性元素の同位体進化史を解読する。この情報から、最有力の月形成仮説であるジャイアント・インパクト形成仮説、あるいは、形成直後の惑星表面に揮発性物質が供給されたとするレイト・ベニア仮説など、月・地球系の形成や水惑星の形成・進化、など地球科学の根幹をなす重要な仮説の検証が可能である。本研究では、月岩石中に広く見られるカリ長石に注目した。還元的な月岩石圏では、窒素はアンモニウムイオンの形で、カリ長石に濃集している可能性が高い。月岩石に見られるカリ長石は典型的に数十ミクロンの大きさのため、カリ長石中に含まれる窒素・水素同位体組成を分析するためには、微小領域同位体分析装置、SIMSを用いる必要がある。SIMS分析において、N- , NO- やNH-の感度は著しく低いことが知られており、窒素は専らCN- の形で分析する。ところが、カリ長石に期待される窒素はアンモニウムの形で含まれるため、炭素が存在しない。本研究においてカリ長石に13Cイオンを人工的に照射することにより、アンモニウム態窒素から13CNイオンを誘発させる分析技法を開発した。今年度の試行において、月隕石中カリ長石の分析で有意な13CNイオンの誘発が確認され、従来SIMSでは見えなかった無機鉱物中窒素を「見える化」することに初めて成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の試行において、月隕石中カリ長石の分析で有意な13CNイオンの誘発が確認され、従来SIMSでは見えなかった無機鉱物中窒素を「見える化」することに初めて成功した。 13Cイオンを照射した月隕石中カリ長石のSIMS分析により得られた二次イオンの深さプロファイルを東京大学・大気海洋研究所に備わるNanoSIMS50で測定した。50keVのエネルギーを持つ13Cイオンを打ち込み、深さ150nmを中心に平均6000ppmの13C濃縮層を人工的に作り出した。NanoSIMSを用い表面から徐々に分析を進めたところ、深さ150nmを中心に、バックグラウンドレベルを有意に上回る13CN二次イオン信号が観測された。カリ長石に捕獲された固有の窒素が、打ち込まれた13Cに誘発され二次イオン化したと解釈している。同様の分析を同じ隕石中のカンラン石で行ったところ有意な13CNイオンの過剰は見られなかった。かんらん石にはアンモニウムイオン態の窒素は、結晶構造上存在し難いと考えられるため、この観測事実は、上記の解釈と整合的である。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題では、原理実証が完了した段階である上述分析技法を用い、少なくとも10パーミルの窒素同位体分析精度を実現するための最適化と検証を進める。高いバックグラウンドレベルの上にようやく固有信号が見える現状からのS/N比向上に向け、技法改良諸策をまず講じる。
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