2018 Fiscal Year Annual Research Report
細胞生物学および計算生物学の手法を用いた消毒機構の定量的評価に関する研究
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17H03331
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
大瀧 雅寛 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (70272367)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
由良 敬 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50252226)
相川 京子 (小島京子) お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (80262351)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 塩素消毒 / オゾン消毒 / 損傷部位 / 蛍光タンパク質 / ペリプラズム / UV耐性 / 人工DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
H30年度は2つの主テーマについて以下のように研究を遂行した 1.細菌細胞内の損傷部位を特定し,被損傷菌の損傷部位を定量的に把握する研究 これまで大腸菌(DH5α株)では細胞質内に蛍光タンパク質(GFP)を発現させていたが細胞内の別箇所としてペリプラズム部位(細胞膜と細胞外膜間)への発現を試みて成功させた.そこで細胞質内とペリプラズムにGFPを発現させた両大腸菌に対し,塩素消毒処理を実施して,残存率およびGFPの細胞外への漏出量を測定した.この結果として,投入塩素の形態の違い(次亜塩素酸と次亜塩素酸イオン)によってGFPの漏出率が異なっていることと両大腸菌からの漏出率の違いから,細胞膜の損傷深度が確認できた.また細胞質内にGFPを発現させた大腸菌に対してオゾン溶解水による処理を実施し,GFPの漏出率の他,フローサイトメータを用いて,細胞内残存GFPの測定および低分子染色剤(7AAD)の膜浸透性を適用することで多角的に膜損傷の評価を行った. 2.ウイルスの核酸から紫外線耐性を推定する研究 核酸配列による紫外線耐性を実験的に確認し,かつ計算シミュレーション結果と比較することで,シミュレーションの妥当性を検証することを目的とした.ただし計算シミュレーションは現在の演算速度レベルでは,核酸長がある程度短くないとできないことから,短い核酸長を人工的に作成して研究に供することとした.まず人工核酸として,チミン-チミンの塩基組数を調整した人工DNAを作成し,紫外線への反応性を実測する手法の開発を試みた.紫外線照射により形成する二量体数の計測が可能であれば,それが紫外線の反応性を意味すると考えた.そこで二量体形成の存在率を測定するために定量的PCR法の適用を試みたが,結果としては紫外線照射前後でPCR測定結果の差が生じず二量体を検出できなかった.現在,次の対策を検討している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.細菌細胞内の損傷部位を特定し,被損傷菌の損傷部位を定量的に把握する研究 大腸菌に細胞質内とは別箇所にGFPを発現させることができるか検討し、それら蛍光タンパク発現大腸菌を塩素消毒実験に供して,損傷箇所についてより詳細な情報を得ることを予定し,ほぼ予定通りのスケジュールにて実施出来た。また消毒実験としてオゾン溶解水を用いた実験についても遂行することができた.このオゾン溶解水における膜損傷の把握においては,GFPの細胞内残存率をフローサイトメータにて確認する手法や,高分子であるGFP(約3万Da)と同時に低分子染色剤7AAD(1270Da)の細胞浸透性をフローサイトメータにて確認する手法を確立し,多角的に細胞損傷を定量化する手法が提案できた.これらのことから本テーマにおいては,想定以上の成果が得られたものと判断する。 2.ウイルスの核酸から紫外線耐性を推定する研究 当初の計画では一本鎖の人工DNAを作成し,紫外線との反応性を定量的PCRを用いて把握することを予定していたが,予想に反して,紫外線照射前後において定量的PCR測定結果が異ならず,二量体はPCRによって検出できないことがわかった.そこで二量体と反応しDNAを切断する酵素を用いることによって二量体形成DNAを断片化し,定量的PCRにて検出されなくなることで反応性を評価できると考えた.この酵素は二本鎖DNAにしか反応しないため二本鎖の人工DNAの作成を行った.以上,紫外線反応済みDNAの検出方法が予想外に困難を極めており,紫外線耐性を実験的に把握することが出来ていない状況である.また塩基配列より核酸の2次元構造や3次元構造をコンピュータシミュレーションにより予測する研究については、人工DANのミュレートに着手したばかりでまだ研究成果はない.以上の状況からしてテーマの1,2を合わせて,やや概ね順調に推移していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.細菌細胞内の損傷部位を特定し,かつ被損傷菌の損傷レベルを定量的に把握する研究 大腸菌細胞質内とペリプラズムへのGFP発現手法の確立ができ,塩素およびオゾン溶解水による消毒実験に供することができたのはほぼ予定通りであった.最終年度は複数種の大腸菌においてペリプラズムへのGFP発現を試みる.またオゾン溶解水の消毒にて用いたフローサイトメータや低分子染色剤を用いての評価方法を塩素処理に適用して,塩素消毒やオゾン曝気消毒においても多角的に膜損傷を評価することを目指す. 2.ウイルスの核酸配列から紫外線耐性を推定する研究 まずは人工的に作成した核酸種(DNA)において,紫外線反応性を測定する手法を確立する.また同時並行的に計算シミュレーションから紫外線耐性を理論的に推定するモデルの作成にも着手する.人工核酸種の紫外線反応性の測定には二量体に反応してDNAを分断する酵素の利用を考えているが,原理的には可能な筈であり,今年度前半には確立させる予定である.計算シミュレーションではまずは二次構造を予測させ,二量体の存在箇所の違いによる紫外線曝露確率への影響を推定するとともに人工DNAのUV反応実験の結果にて検証を行う予定である.
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Research Products
(2 results)