2017 Fiscal Year Annual Research Report
環境DNAを用いた回遊性魚類分布推定と河川工作物の影響評価
Project/Area Number |
17H03623
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
荒木 仁志 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20707129)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福島 路生 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (10291048)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 環境DNA / 河川工作物 / 魚類相 / 回遊性魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトは、新規生態学ツールとして発展目覚ましい「環境DNA」を用いて、地域特異性の高い回遊性魚類の生物分布や季節性、河川工作物の影響を客観的かつ網羅的に解明することを目的としている。河川工作物には大規模なダムから大小さまざまな堰堤・カルバートなど様々なものがあり、また新たに魚道を新設した場所など、その形態は多岐にわたる。これら個別の状況を体系立てて整理し、環境DNAメタバーコーディングと呼ばれる手法により、工作物上下の魚類相を明らかにするのが目下の目標となっている。 H29年度は国立環境研究所の協力の下、北海道内約150河川において本解析に供する河川水サンプルの収集を行った。これらのサンプルは申請者(荒木)の所属する北海道大学農学部において現在解析中で、H30年度中にはその概要を明らかにできるものと期待される。この結果は各河川の基礎的な魚類相(潜在的回遊魚の分布)に関する情報を提供する。と同時に、河川工作物による魚類相の分断が特に懸念される15河川について、ダム、堰堤、カルバートなどの上下の河川水に含まれる環境DNAの比較を実施した。これらの網羅的比較解析は現在実施中であるが、部分解析の結果は河川工作物の影響が魚種依存的で、同じ工作物でも種によってその影響が異なることを示唆するものとなっている。 これらの研究成果は第47回北洋シンポジウム(北海道大学)および流域環境研究会(北海道立総合研究機構)で発表されたほか、市民向けイベントである環境フォーラム・エコカフェ(滝川)、札幌ワイルドサーモンプロジェクト(札幌)での研究紹介発表、「海洋と生物」「Salmon情報」などの国内誌でも広く一般に紹介する機会を得た。また、これに先立ち行った水槽実験の結果はMizumoto et al. (2018)としてまとめられ、国際学術誌Limnologyに発表されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初H29年度に予定していたサクラマスの水槽実験については供試魚と設置場所の都合がつかず断念したものの、(独)さけます内水面水産試験場で先に実施していたイトウを用いた水槽実験の解析が順調に進み、その結果も我々の予想を上回る明確な生物量・環境DNA量相関を示した(Mizumoto et al. 2018)。このことから、水槽実験については一定の成果が得られたものと判断し、研究の重点を野外サンプルに移行した。 野外サンプルにおいても国立環境研究所をはじめ、各共同研究・協力機関からの十分なサポートが得られ、初年度としては最大の成果となる約150河川からの採水調査を実施するに至っている。この採水調査手法についても改良を重ねており、現在では安定してDNAを持ち帰ることの出来る保存液中にろ紙サンプルを入れる作業までを全て採水現場で実施できるよう、プロトコルをアップデートしてきた。これにより、これまでの懸念材料であったろ過待ち時間のバラつきとそれに伴うDNAの減衰への懸念が少なくなり、より安定した魚類相推定と推定結果の比較が可能となる事が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度は昨年実施した河川サンプルの解析を急ぐと共に、河川工作物のタイプ別の生態学的影響を評価できる手法の確立を目指す。河川サンプルについては引き続き収集に努めると同時に、今年度は河川上下の採水デザインを精査し、どのような規模(時空間スケール)であれば河川工作物の生態学的影響を正しく評価できるのか、調査現場における検討を行う。昨年の予備調査では、比較的小さい河川工作物の影響は数百メートル単位のスケールにおいて評価が可能であることが示された一方、河川規模によってはより大きい時空間スケールでの影響も予想されるため、様々な地点間距離・時系列での採水調査を行うことにより、これを検証する。また、昨年度新たに導入した採水調査用のドローンを試用し、河川内で様々な採水地点を比較することでその効果も併せて検討する。
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Research Products
(8 results)