2018 Fiscal Year Annual Research Report
細胞認識を起点としたSurveillanceシステムの遺伝的基盤
Project/Area Number |
17H03673
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大澤 志津江 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (80515065)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 創傷治癒 / Slit-Robo / 死細胞の排除 |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物の組織や器官を構成する細胞集団において、異常な細胞を認識して排除することが、器官形成や恒常性維持に重要な役割を果たすと考えられているが、その分子機構や生理機能についてはいまだ不明な点が多い。我々はショウジョウバエ上皮をモデル系として用い、リガンドー受容体システムSas-PTP10Dが上皮組織に生じたがん原性の極性崩壊細胞を認識する上で重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた(Yamamoto#, Ohsawa# (# equal contribution) et al., Nature, 2017)。また一方で我々のグループは、神経系で反発作用を誘発するリガンドー受容体システムSlit-Roboが極性崩壊細胞の排除を促進する上で重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた(Vaughen & Igaki, Dev Cell, 2017)。そこで本研究では、Sas-PTP10DおよびSlit-Roboシステムに着目し、「細胞認識を起点としたSurveillanceシステム」が機能する組織・時期を探索した。その過程で、翅成虫原基(将来、翅のブレード領域を形成する幼虫期の組織)に導入された物理的損傷が修復する過程において、Sas-PTP10DおよびSlit-Roboシステムがいずれも重要な役割を果たしていることが分かった。興味深いことに、Slit-Roboシステムを遺伝学的に破綻させると、創傷治癒の間で生じた死細胞が組織から排除されずに成虫原基に留まる様子が観察された。さらに、Slit-Roboシステムの破綻により組織中に留まった死細胞が、分泌性の増殖因子Dpp(BMPホモログ)やWingless(Wg; Wntホモログ)を産生していることが分かった。これらの観察結果は、死細胞を速やかに組織から排除することが創傷治癒を行う上で重要な役割を果たしていることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Slit-Roboシステムの破綻により死細胞が組織に留まることが、創傷治癒の過程にどのように影響しているのかを解析した。その結果、組織中に留まった死細胞が増殖性の分泌因子(DppやWg)を発現していることが分かった。興味深いことに、死にゆく細胞が増殖性の分泌因子の産生を介して周辺細胞に細胞増殖を促す「代償性増殖」という現象が知られている。すなわち、死にゆく細胞を速やかに排除することが代償性増殖を抑制する上で重要な役割を果たしていると考えられた。本研究成果は、創傷治癒の過程において、排除すべき細胞を速やかに排除するシステムが機能するという新しい概念を示唆するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
Slit-Roboシステムの破綻により発現が誘導される分泌性増殖因子DppおよびWgの創傷治癒における役割を遺伝学的に解析する。それと並行して、Sas-PTP10Dシステムが創傷治癒において果たす役割とその分子機構を解析する。それらの解析結果を統合することで、細胞認識を起点としたSurveillanceシステムの理解に迫る。
|
Research Products
(10 results)