2017 Fiscal Year Annual Research Report
ヘビ類における新奇な防御器官の進化:頸腺の発生学的起源と餌毒利用の推移過程の解明
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17H03719
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森 哲 京都大学, 理学研究科, 准教授 (80271005)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 直樹 京都大学, 農学研究科, 教授 (30293913)
土岐田 昌和 東邦大学, 理学部, 講師 (80422921)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 防御機構 / 毒 / 進化 / 爬虫類 / ヘビ / ホタル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は中国、台湾、インドネシアに渡航し、現地協力者とともに調査を行なった。中国では陝西省と四川省においてミゾクビヤマカガシとイツウロコヤマカガシ、および、マドボタル亜科とホタル亜科のホタルを採集し、捕食実験と毒成分の採取を行なった。捕食実験においては、イツウロコヤマカガシはホタルを区別し、ブファジエノライドを持つマドボタル亜科のホタルのみを選食することが示された。台湾ではタイワンヤマカガシとスウィンホーヤマカガシを採集し、頸腺毒を採取するとともに、ラテックスの注入による頸腺周辺の毛細血管網の染色観察を行なった。また、毒成分分析のためのマドボタル亜科のホタル類を採集した。インドネシアではボゴール動物学博物館を訪問し、共同研究の最終締結に向けての協議を実施するとともに、アカクビヤマカガシとハブモドキ属1種の頸腺形態の解剖観察を行なった。 頸腺毒およびホタル毒の化学分析の結果、台湾産のマドボタルの1種であるDiaphanes lampyroidesはイツウロコヤマカガシと全く同一の構造をしたブファジエノライドを2つ持つことが明らかになった。また、中国産のマドボタル属の1種は、これまでに報告されていない非常に分子量の高い側鎖を有したブファジエノライドを持つことが示唆された。 ヤマカガシ胚における頸腺発生の研究では、一連の発生ステージの胚の外部形態の観察から、ステージ32において、頸部背面に前後軸に沿って整列した3~5対の黒色の頸腺組織が現れることがわかった。比較対象種であるシマヘビおよびマムシの相当ステージの胚では同様の構造は認められなかった。また、ステージ32のヤマカガシ胚、ならびに同ステージのシマヘビ胚およびマムシ胚の頸部組織からトータルRNAを抽出し、ハイスループットシーケンサを用いたRNA-seq法により、それぞれの組織で発現する遺伝子の網羅的同定に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
頸腺の発生起源の分析、および、頸腺液成分とホタル毒成分の化学分析はほぼ計画通りに進んでいる。海外でのヘビ類の採集に関しては、インドネシアとの共同研究締結にやや時間を要しているため、頸腺液サンプルの日本への輸入許可がまだ得られていない。このため、ハブモドキ属を対象とした研究に若干の遅れがあるが、2018年度中には締結が完了し、化学分析等に着手できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も、対象とする22種の食性情報を集めるとともに、各種の頸腺毒の成分分析を行う。今年度は特にインドネシアと中国に分布する種に重点をおく。海外共同研究者の協力を得ながらヘビを各地で採集し、強制嘔吐法により胃内容物を調べる。採集したヘビからは頸腺毒成分を採取し、化学分析を行う。特に、ハブモドキ属の種においては、頸腺の組織切片を作成し、詳細な形態観察を実施する。また、博物館が所蔵する液浸標本を解剖し、胃内容物データを補充する。 中国では、マドボタル属のブファジエノライドの構造決定を進めるとともに、中国産のDiaphanes属の採集と毒成分の解明も試みる。一方、イツウロコヤマカガシが、ブファジエノライドを持つマドボタル亜科の種と持たないホタル亜科の種を区別して捕食するかどうかを検証するための嗜好性特定実験をさらに実施し、ブファジエノライドを持つホタルに対する選好性を明らかにする。 頸腺の発生学的起源の解明においては、ヤマカガシ胚で特異的に認められた頸腺の内部構造を詳しく記述するため、組織学的解析を行う。発生ステージ30、32、33/34、35においてマッソンのトリクローム染色を行い、頚腺の組織構造を観察する。また、CD31抗体を用いて血管内皮を特異的に免疫染色し、ヒキガエル由来のブファジエノライドを頸腺に運搬すると考えられる血管の分布パターンを観察する。さらに、バイオインフォマティクス解析を完了し、ヤマカガシ胚の頸部のみで強く発現する遺伝子を複数同定する。その後、ヤマカガシ胚の頸部で特異な発現様式を示す遺伝子(上位5~10個)について、胚頸部組織における発現時期ならびに発現領域を組織切片のin situ ハイブリダイゼーションにより同定する。
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Research Products
(14 results)