2017 Fiscal Year Annual Research Report
Development of a shuttle vector which is autonomously replicable in chloroplast and E. coli
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17H03750
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
寺地 徹 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (90202192)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山岸 博 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (10210345)
木村 成介 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (40339122)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 葉緑体 / タバコ / シャトルベクター / 組換え |
Outline of Annual Research Achievements |
葉緑体の遺伝子組換えを利用して、強光などのストレスに強い植物を作出する目的で、モデル植物であるタバコの葉緑体ゲノムに活性酸素分子種の消去に関わる酵素APXの遺伝子を導入した。その結果、APXを強発現する組換えタバコが得られたが、一部の系統に斑入りが観察された。その原因を探るため、斑入りのタバコの葉緑体ゲノムを調べたところ、著しくコピー数が増加したミニサークル(組換え型の葉緑体ゲノムからループアウトしてできた22kbの環状DNA分子)を葉緑体中に見いだした。この結果はミニサークルに葉緑体の複製起点が含まれることを示唆する。そこで本研究は、このミニサークルを利用して、葉緑体と大腸菌の双方で自律的に複製可能なシャトルベクターを初めて開発することを目的とした。この研究では、目的遺伝子を、相同組換えで葉緑体ゲノムに導入するのではなく、自律複製可能なベクターにクローニングして葉緑体へ導入する。また、タバコで得た葉緑体DNA複製の知見を、レタス、トマトおよびコムギへ応用し、この方法の汎用性を検討する。さらに、このベクターから目的遺伝子のみを葉緑体ゲノムへ移行させることで、抗生物質耐性遺伝子のマーカーフリー組換え体を作出する。 平成29年度は、ミニサークルを分割して得た3種類の葉緑体DNA断片を、それぞれ大腸菌のプラスミドベクターpBluescriptIISK+にクローニングし、さらに抗生物質耐性マーカー遺伝子(aadA)を結合した3種類のシャトルベクターを構築し、タバコの葉へボンバードメント法により撃ち込んだ。その結果、いずれのベクターからも抗生物質耐性を示すタバコのシュートやカルスを得ることができた。また、これらの個体を閉鎖系温室で育てて自殖種子を得て、次世代に抗生物質耐性が伝達するか調査した。その結果、一部の系統には耐性個体が出現し、このシャトルベクターが次世代へ伝わることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進展していると考える。その理由は、まず、パーティクルガン法を用いて上記3種類のプラスミドをタバコの葉へ撃ち込んだところ、実際に抗生物質耐性を示す複数のシュートやカルスが得られたことである。これらのプラスミドは、葉緑体内で自律複製しているミニサークルの断片を持つので、3種類のうち少なくとも1種類は、このような結果を示すであろうと予測していたが、すべてのプラスミドで耐性個体が得られたのは予想外であった。この結果は、用いたプラスミドがいずれも葉緑体の形質転換に利用できることを示している。また、次の理由は以下の実験結果による。耐性個体のシュートから、全DNAを抽出し、そのDNAを大腸菌へトランスフォームしたところ、#2Aと呼ぶ耐性系統からは、撃ち込んだプラスミドである#2Aがそのままの形でレスキューされた。このことは導入されたプラスミドが葉緑体中で自律複製可能であることを示しており、大腸菌と葉緑体の双方で複製可能なシャトルベクターを構築するという、当初の目的の本筋は#2Aにより達成されている。また#1および#3と呼ぶ耐性系統からは、撃ち込んだプラスミドよりもサイズの大きなプラスミド(プラスミド#1ins、#3ins)がレスキューされた。部分的シークエンンシングなどによる解析の結果、プラスミド#1insおよび#3insには、新たな葉緑体DNA断片が相同組換えによって移行していることも新たにわかった。撃ち込んだプラスミドが、植物内でどれだけ増加しているのかを調べるために、耐性個体の全DNAを鋳型に、TaqManプローブによるリアルタイムPCRを行った。その結果、プラスミドは葉緑体ゲノムに対して#1で7.9倍、#2Aで平均1.9倍、#3で平均6.2倍多くなっており、それが持つ断片によってコピー数に差が見られたものの、いずれも葉緑体内で増幅可能であることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
大腸菌のプラスミドベクターであるpBluescriptIISK+に、単なる葉緑体DNA断片(とaadA遺伝子)をクローニングしたものが、葉緑体の中で自律複製し、しかも次世代へ伝達されるという発見は大きなものであり、大腸菌と葉緑体の双方で複製可能なシャトルベクターを構築するという、本研究の主な目的へ至る大筋は、達成されていると考えている。一方、このシャトルベクターで、aadA遺伝子以外の外来遺伝子を葉緑体へ導入できるかは、論理的にはともかく、まだ実験により証明されていない。そこでGFP遺伝子などの可視化マーカー、あるいは植物の表現型に変化をもたらす、なんらかの遺伝子を持つシャトルベクターを構築し、葉緑体形質転換が可能か、これまでと同様の実験系でテストする。また、上記プラスミド#1insおよび#3insが生じた組換え体では、葉の斑入り部分と斑入りの無い部分で、コピー数に差があるなど、解釈や説明に困る現象がいくつか観察されている。今後の研究では、#1insおよび#3insを持つ組換え体についても、次世代を育てるなどにより、その詳細を解析し、これらの現象の理由を解明したい。 当初の目的のひとつである、タバコで得た葉緑体DNA複製の知見をレタス、トマトおよびコムギなどの植物へ適用し、シャトルベクターによる形質転換方法の汎用性を検討することについては、材料調製の関係から今年度はトマトを中心に実験を進めたい。また、このベクターから目的遺伝子のみを葉緑体ゲノムへ移行させることで、抗生物質耐性遺伝子を持たない、マーカーフリー組換え体を作出する方法の確立についても、新知見を吟味しながら戦略を練りたい。
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