2018 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on mechanisms to form disordered regions periodically present along cellulose microfibrils in isolated wood celluloses
Project/Area Number |
17H03840
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
磯貝 明 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (40191879)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 継之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90533993)
堀川 祥生 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任准教授 (90637711)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | セルロース / 非晶領域 / TEMPO触媒酸化 / 希酸加水分解 / レベルオフ重合度 / セルロースミクロフィブリル |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの研究結果から、脱リグニン処理した木材ホロセルロースの乾燥条件によっては、希酸加水分解処理で得られる重合度が400~500程度となり、乾燥処理で得られるレベルオフ重合度である200~300よりも明瞭に大きな値となった。すなわち、希酸加水分解で得られるレベルオフ重合度に対応する非晶領域は、元々の植物セルロースミクロフィブリル中に存在しているのではなく、人工的な乾燥条件により後天的に生成することを見出した。また、例えば平均レベルオフ重合度が200~300でも、最大重合度は1000程度から、最小重合度60程度まで幅広い分を示しており、相当幅広い分布を有していることから生合成過程で規則的に生成しているとは考えにく。さらに、針葉樹中の高分子量セルロース分子には、グルコマンナンの分岐構造が相当量存在しており、この結合がアルカリに安定であることも見出した。 今年度の研究成果から、維管束植物ではないスギゴケ、維管束植物で裸子植物であるシダ、イチョウ、スギの高分子量セルロースには、リグニンあるいはリグニン分解物を介したグルコマンナン鎖の分岐が相当量存在していることが明らかになった。しかし、セルロース分子に分岐の無い広葉樹セルロースおよび草本類のセルロースにも、乾燥処理によってレベルオフ重合度に対応する非晶領域が生成することから、セルロースの分岐とレベルオフ重合度の生成は無関係であった。これらの研究成果から、セルロースミクロフィブリルの長さ方向に沿った非晶領域の生成機構について、さらに検討を進める。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年、一昨年度までの研究結果から、木材試料の乾燥処理が、レベルオフ重合度200~300に対応する周期的な非晶領域の生成要因となっていることが明らかになった。また、乾燥条件によっては、希酸加水分解処理で得られる重合度は400~500程度に明瞭に増加することも明らかになり、重合度200~300に対応する周期的非晶領域の生成は乾燥条件に依存することを見出した。また、スギゴケ、シダ、イチョウ、スギの高分子セルロース分子には相当量のグルコマンナンの分岐が存在することが明らかになり、「セルロースは直鎖状のホモポリマー」という定義が植物種に依っては当てはまらないことも明らかになった。これらの研究成果は、2報分として国際誌に投稿-掲載されており、今後さらに植物種全体について系統的な成果が見込まれる。 高さ数センチメートルのスギゴケの段階から遠い将来の分化の先に、場合によっては高さ100メートルを超える高樹高の裸子樹木体が重力や風雨に耐えうる、セルロースミクロフィブリル表面の分岐構造による高強度複合細胞壁構造の設計が進められていたことになる。一方、植物細胞壁中では結晶性セルロースミクロフィブリルの長さ方向の周期的非晶領域は存在せず、僅かにねじれてた(すなわち対称性の無い)欠陥の無い構造で、植物細胞壁中で鉄筋のような役割を担っていると考えられる。あくまでも、非晶性のリグニンとヘミセルロース存在下での細胞壁中では、無欠陥のセルロースミクロフィブリル構造と考えるのが妥当であるとの実験結果が得られている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ヘミセルロース存在下の各種植物ホロセルロース試料について、固体の13C-NMRを用いて結晶/非晶比率をC4位のケミカルシフトの面積比率から求め、乾燥条件、ヘミセルロースの存在の有無による非晶領域の定量分析が可能かどうかを検討する。続いて、非晶領域のC6位のコンフォメーションが、tg/gt/ggのいずれかを、C6位のピーク分離による面積比から検討する。植物細胞壁中の1本のセルロースミクロフィブリル中のセルロース分子数については、3の倍数であることはほぼ確実ではあるが、18本、24本、36本説が提案されているが結論は得られていない。固体NMRにより、セルロースミクロフィブリル中のセルロース分子数についての結論とともに、セルロースミクロフィブリルの長さ方向に加熱処理によって生成する非晶領域の定量的解析が可能かどうかを検討する。 これまでの研究成果から、ヘミセルロースが除去されなければ、乾燥加熱処理でもセルロースミクロフィブリルの長さ方向の周期的非晶領域は生成しにくいことが明らかになった。これらの結果は、これまで困難と思われていた酸性条件でのセルロースの高分子量を維持した誘導体調製反応が可能になる。無水トリフルオロ酢酸を触媒とする各種エステル化反応は、これまでセルロースの低分子化が避けられなかったが、出発セルロースを選択することにより高分子量のセルロースエステル類の調製が可能になると思われ、セルロースの化学反応の適用範囲が大きく拡がる可能性がある。
|