2018 Fiscal Year Annual Research Report
アポリポタンパク質の構造異常によるアミロイド線維形成の分子機構解明と制御法の開発
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17H03979
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Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
斎藤 博幸 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (60300919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 典裕 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (90205477)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薬学 / 生物物理化学 / 蛋白質 / 脂質膜 / 抗体 / アミロイドーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、血中や脳内でのコレステロール輸送を制御しているアポリポタンパク質のアミロイド形成機構の分子論解明を目的として、アミロイド線維形成過程の速度論的・熱力学的解析と共に、脂質や糖鎖等の体内因子による線維形成・臓器選択的沈着・毒性発現メカニズムに関する生化学的・細胞生物学的解析を行う。さらに、アミロイド線維の高感度検出法と形成制御・代謝回転促進技術の開発に向けた新規アミロイド抗体の開発や天然由来化合物の探索を行うことで、アミロイドーシス疾患の新たな診断・治療法開発のための科学的基盤構築を目指している。 平成30年度は、Iowa変異型アポA-Iアミロイドの凝集・線維化過程を線維結合プローブの蛍光変化から経時的に追跡し、核形成-自己触媒線維伸長モデルに基づいたFinke-Watzky式の適用による速度論的解析、並びに核形成及び線維伸長の各過程に対する熱力学的解析を行った。その結果、アポA-Iの核形成過程はエンタルピー的に不利である一方、エントロピー的には有利な反応であるが、線維伸長過程はエンタルピー的にもエントロピー的にも不利な反応であることが示された。さらに、欠損変異体を用いた解析から、凝集傾向の高い50-58残基がアポA-Iの核形成をエントロピー駆動的に促進する領域であることが明らかとなった。 また、Iowa変異型アポA-Iが形成するアミロイド線維の詳細構造解明を目的として、N末側、中央部及びC末側の各領域にシステイン残基を導入し、蛍光プローブであるピレンで部位特異的に標識した変異体を作製した。線維形成前後でのピレンexcimer蛍光の解析から、アポA-Iアミロイド線維はN末端領域とC末端領域を除いた中央部領域が凝集することにより形成され、特に14-22残基と50-58残基を含む2ヶ所の凝集傾向の高い領域が線維構造の核を形成していることを世界で初めて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アミロイド線維の形成は、タンパク質分子が初期会合する核形成過程と、形成した核を鋳型として自己触媒的に線維が伸長する過程の二段階で進行する。このような動的な線維形成過程に関する情報は、アミロイド線維の形成、伝播、代謝回転(沈着線維から可溶性会合体への脱会合)のメカニズムを理解する上で重要である。平成30年度は、Iowa変異型アポA-Iの凝集・線維化過程を、核形成-自己触媒線維伸長モデルに基づいたFinke-Watzky式の適用による速度論的解析、並びに各速度定数の温度依存性のEyring式を用いた解析から、核形成と線維伸長過程の活性化エネルギー項目を決定した。その結果、核形成と線維伸長過程のエネルギー障壁の内訳はエンタルピー項の寄与が大きいが、エントロピー項は核形成では有利に、線維伸長では不利に働いていることが明らかとなり、疎水性の高い50-58残基がおそらく脱水和することで核形成反応をエントロピー駆動的に促進していた。以上のようなアポA-Iアミロイド線維形成過程に関する熱力学的解析は世界で初めてであり、アポA-Iアミロイド形成機構解明の物理化学的基盤となる重要な知見を与えた。 また、Iowa変異型アポA-IのN末1-83フラグメントが形成するアミロイド線維の詳細構造を解析した結果、アポA-Iアミロイド線維はプロリン残基に富むN末端領域と負電荷アミノ酸に富むC末端領域を除いた中央部領域が凝集することにより形成され、特に14-22残基と50-58残基を含む2ヶ所の凝集傾向の高い領域が線維構造の核を形成していることが明らかとなった。このようなアポA-Iアミロイド線維のアミノ酸レベルでの構造に関する知見は世界で初めてであり、今後、構造特異抗体開発や天然由来化合物の作用点解明などへの応用が期待される成果である。 以上のように、当初の研究計画に対しておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、様々なアミロイド線維との臓器や組織における共沈着が報告されてアポEタンパク質について、そのアミロイド沈着促進/抑制メカニズムの解明研究に着手する。具体的には、アミロイドタンパク質の線維形成過程や動的構造安定性、脂質や糖鎖との相互作用におけるアポEのcofactorとしての関与を明らかにする。この際、野生型であるアポE3とアルツハイマー病発症危険因子であるアポE4アイソフォームに関する申請者のこれまでの構造機能比較研究(JBC 278, 40723, 2003; Biochemistry 49, 10881, 2010; 53, 4025, 2014; BBA 1841, 1716, 2014)を基盤とした物理化学的解析を中心に進める。また、アミロイド線維形成・沈着におけるヘパラン硫酸などの硫酸化糖鎖の関与については、糖鎖結合領域を改変したアポE変異体を用いた物理化学的解析(JBC 278, 14782, 2003; 280, 5414, 2005; Biochemistry 47, 6702, 2008)や、糖鎖改変CHO細胞株を用いた細胞生物学的解析(JBC 290, 24210, 2015; Am. J. Pathol. 189, 308, 2019)が可能である。 また、アミロイド線維の形成制御・代謝回転促進技術の開発を目的として、ポリフェノール類であるEGCG誘導体やグリコシド、トリテルペノイド類などの天然由来化合物のin vitroスクリーニングからアミロイド線維形成阻害・脱会合作用を示す化合物を選定する。さらに、得られた候補化合物のアミロイド線維細胞毒性軽減効果をヒト培養細胞を用いて検証することで、アミロイド生成(アミロイドゲネシス)を標的とした新規治療薬候補化合物の探索を進める。
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[Presentation] HS S-domains that accumulate in ATTR amyloidosis patients accelerate and mediate formation and cytotoxicity of transthyretin fibrils2018
Author(s)
Nishitsuji K., Uchimura K., Yamashita T., Kameyama H., Kuwabara K., Mizuguchi M., Hung S.-C., Okuhira K., Ohgita T., Saito H., Ando Y.
Organizer
Society for Glycobiology Annual Meeting 2018
Int'l Joint Research