2018 Fiscal Year Annual Research Report
Can we prevent analgesic tolerance to morphine? Study of high-order opioid receptor signal complex and its clinical application.
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17H04323
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
輿水 崇鏡 自治医科大学, 医学部, 教授 (20392491)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土屋 裕義 自治医科大学, 医学部, 講師 (80508755)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オピオイド / 鎮痛耐性 / バゾプレシン / 受容体 / アレスチン / アロステリック効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、オピオイド麻薬が示す優れた鎮痛効果が、継続投与により耐性が生じ効き目が減弱する現象の解明を目指す。この鎮痛耐性を防ぎ、オピオイド麻薬の副作用の危険を軽減することは現時点では不可能である。臨床的には、効き目の減弱に伴い、投与薬物量の増加によって効果の維持を目指したり、別の鎮痛薬を用いるなどの方法で工夫されている。しかし、過量の鎮痛薬投与は有害作用の危険を高めるため、安全で安定した薬物療法が理想的である。本研究では、なぜ鎮痛耐性が生じ、一旦生じた耐性を効果的に治療するための手段はないのか、この2点の難題に挑戦している。本研究の特長として、最近、申請者らは、これまで鎮痛とは関連が知られていないホルモン受容体の欠損動物において、野生型と比較して1)痛みを感じにくく、2)鎮痛麻薬には感受性が高い性質を見出した。本研究では、この受容体欠損動物の知見を鎮痛治療に応用し、痛み閾値と鎮痛持続をコントロールする全く新しい鎮痛療法を世界で初めて提示することを試みている。 2018年度は、これまでの研究成果を論文として発表することができた。すなわち、我々は、福岡大学薬学部の研究チームとともに、強力な痛み止め効果を持つ医療用麻薬のモルヒネについて、鎮痛効果がより強く、長く続くことを可能にする方法を発見した。具体的には、脳内で放出されるバゾプレッシンホルモンの受け皿の1つとして働くV1b 受容体の働きを止めた実験動物を作成し解析した結果、医療用麻薬であるモルヒネの効果が強くなることを発見した。さらに、V1b 受容体の働きを薬で止めることによっても、医療用麻薬の効果が強くなることも見出した。この成果により、医療用麻薬とV1b 受容体の働きを抑制する薬を同時に用いることにより、医療用麻薬の効き目を増加させて、長く保つ治療が可能になると判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進展に伴い、現時点では耐性発現の原因となる脳部位の同定と治療応用を目指している。これまでの検索により、注目する受容体は脊髄レベルよりも脳内で働いていることが示唆されている。その為、耐性獲得に重要な脳部位を、ホルモン受容体の発現を参考に絞り込むことに成功しつつある。この部位に特異的に薬物を投与することで、1)オピオイド受容体の鎮痛効果を高める、また、2)オピオイド耐性を防ぐことができるかについて検索を進めている。そのために、知覚の閾値に関与する部位、オピオイドに感受性を示す脳部位について、当該受容体発現分布と拮抗薬の効果について検索する。(1)引き続き、In situ hybridyzationによる発現分布と発現細胞の頻度を解析する。(2)Crispr/Cas9によりゲノム編集し、基本的な受容体機能を保ちつつ受容体カルボキシル基末端が部分的に欠損する変異体を作成することに成功している。これらマウスの基本的な表現型を進めている。 さらに、オピオイドとバゾプレッシン受容体が直截的な複合体を形成する可能性について検討を進めている。細胞培養レベルでの実験系において、受容体が共発現する場合に、相互作用を及ぼす距離に局在するかについて実験を進めている。生体内での解析には、各受容体を認識する抗体を波長の異なる蛍光色素で標識し、同時に免疫染色して蛍光の振動エネルギー移動を観察する手法を用いている。また変異受容体における分子相互作用と耐性獲得の強さとの関連を生化学的に解析している。全体像は捉えつつある為、今年度は仮説を裏付けるための情報を収集する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進行している上記の実験に加え、脳内局所への受容体拮抗薬投与、耐性マーカーを指標とした治療方策の検討、分子基盤の解明にさらに踏み込んで研究を進める。耐性獲得の脳内局所の機能について考えられる候補について明らかにする。特に薬物の組み合わせを用いた局所投与の効果について検討する。異なるオピオイド受容体刺激薬を試し、遺伝子欠損動物で観察された鎮痛耐性の減弱が、どのようにリガンドに依存して変化するのかを解析する。また野生型の動物を用いて、実験的に作成した痛みへのオピオイド効果を、受容体拮抗薬がどのように修飾するかについて理解を進める。さらに、耐性獲得を減弱させる薬物のスクリーニングを実施する。鎮痛耐性に加えて、依存性の解析にも成果が得られており、行動解析においてビデオや画像解析に深層学習ディープラーニングを含む新たな手法を取り入れる。また、受容体拮抗薬の効果については、耐性獲得の生化学マーカーを用いた評価系も利用して解明に迫る。これまでに、耐性の生化学的シグナルにリン酸化が関わる可能性を見出している。耐性獲得に伴い、脳組織のアデニレートサイクラーゼが刺激に過剰反応する状態(スーパーアクチベーション)を指標して薬物の評価を進めることが可能である。耐性獲得の分子基盤に関し、受容体を含む高次複合体が耐性の成立に向けて働くことを突き止めつつあり、本研究の成果として耐性が生じる機序の理解が、格段に進むことが予想される。
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