2019 Fiscal Year Annual Research Report
「カエル糊」の適応進化の解明を目的としたフクラガエル類の自然史研究
Project/Area Number |
17H04608
|
Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
倉林 敦 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (00327701)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
澤田 均 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60158946)
熊澤 慶伯 名古屋市立大学, 大学院システム自然科学研究科, 教授 (60221941)
森 哲 京都大学, 理学研究科, 准教授 (80271005)
土岐田 昌和 東邦大学, 理学部, 講師 (80422921)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 形質進化 / 接着物質 / フクラガエル / 新産地 / 南アフリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
フクラガエル属(Breviceps)は、皮膚から分泌する糊によって雌雄が体を接着して交尾する、奇妙な四足動物である。我々は、発見以来60年間謎のままであったフクラガエル糊について、その物理的特徴と、構成蛋白質、およびその候補遺伝子を明らかにしつつある。本研究では、アフリカにおいてフィールドワークを行い、生殖用の糊という形質の、起源・要因・過程など、適応進化の実体を生態学・系統学・分子遺伝学の側面から解明する。この過程で、生態学・形態学的解析、新種記載、人工繁殖研究などもあわせて実施し、謎の多いフクラガエルとその近縁属の自然史について新たな知見を加えることを目的としている。 本年度は、11月に南アフリカの西ケープ州、および、東ケープ州においてフクラガエル類の観察、採取を行なった。西ケープ州では、ジャイアントフクラガエル・ローズフクラガエルに加え、昨年採取はできたものの、実験前に死亡したクロフクラガエルを採取した。さらに、ケープタウンから30 kmほどの地点で、ナマクワフクラガエルを採取した。本種の分布はケープタウンから300kmほど北からと考えられていたため、これは本種の新産地の発見となった。東ケープ州では、ヘイゲンフクラガエルの採取を試みたが、成功しなかった。また、北ケープ州に分布するサバクフクラガエルを現地共同研究者に採取していただき、実験に供した。 各種の糊分泌物を採取し、その強度を測定した。その結果、上記のうち1種(特許申請の関係で公表しない)は、極めて接着力の強い糊を持ち、その接着力は、アロンアルファなどの市販の接着剤を上回ることさえあった。また、フクラガエルの糊の接着力は、1)体の体積(重量)に比例して強くなる、生息地の土壌の硬さに比例して強くなる、という2つの仮説があったが、本年の研究からはそのどちらの仮説も否定された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の調査の結果、本研究全体の目標であった通算10種以上のフクラガエルの採取に成功した。また、ナマクワフクラガエルの新産地を発見した。さらに、糊サンプル採取と糊強度実験を実施した結果、これまでに例を見ない、極めて強い糊分泌物を発見することができた。また、これまでの糊接着力についての2つの仮説は、実験結果からそのどちらもが否定された。また、パワーフクラガエルとモザンビークフクラガエルのミトコンドリアゲノムを決定し、パワーフクラガエルが脊椎動物で2番目に大きいミトゲノムを持っていることを明らかにし、その成果を論文として公表した(最大のミトゲノムはアメフクラガエル)。これらの点においては、研究は無事進展している。 一方で、南アフリカでの野生動物採取許可は取得することができたが、遺伝子資源の日本への輸出許可は取得できておらず、採取したサンプルは、研究代表者が員外教授をつとめている現地ノースウェスト大学に保管している。 さらに、タンザニアに分布しているフクラガエル近縁属のカエルについての調査許可申請は未だ実施できておらず、これらの点では研究の進展は遅れている。 以上の点を踏まえ、本年度の研究の進捗状況は、おおむね順調に推移したと自己評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
フクラガエルの糊の接着力は、1)体の体積(重量)に比例して強くなる、生息地の土壌の硬さに比例して強くなる、という2つの仮説があったが、本年の研究からはそのどちらの仮説も否定された。このため、系統的には性的なグループ、または一部の単系統群で糊の接着力が高まったとする第3の仮説を検証していく必要が生じたので、これを推進する。 南アフリカにおいて、系統的に重要だが、採取ができていない種や、サンプル数が不十分な種について追加調査を予定する。一方で、上述のように、南アフリカでの野生動物採取許可は取得することができたが、遺伝子資源の日本への輸出許可は取得できておらず、採取したサンプルは、研究代表者が員外教授をつとめている現地ノースウェスト大学に保管している。この輸出許可の取得を目指す。(なお、現地の共同研究者は、共著論文が出版されたことで、輸出許可の申請のハードルが下がったとコメントしている。)輸出許可申請がおりた場合、速やかに保存サンプルを日本に輸送する。また、タンザニアにおいても許可申請を行い、フクラガエル近縁属についてのフィールドワークを推進する予定である。しかしながら、本年度はコロナウィルスのパンデミックにより、南アフリカ・タンザニアどちらも本年度の現地調査の実施可能性は明示できない。フィールドワークが実施できない場合、これまでに蓄積した遺伝子資源によらないデータをまとめて論文化する。(また、状況に応じ、研究課題の繰越申請を検討したい。)
|
Research Products
(2 results)