2017 Fiscal Year Annual Research Report
複雑な分子間反応の連鎖を光操作で解き明かすーアポトーシス機構の分子論的理解ー
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17H05001
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中曽根 祐介 京都大学, 理学研究科, 助教 (00613019)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光遺伝学 / 分子間反応 / アポトーシス / 光センサータンパク質 / LOVドメイン / 過渡回折格子法 |
Outline of Annual Research Achievements |
アポトーシス実行因子の一つであるCaspase-7の酵素ドメインのN末端側に、LOVドメインを光操作素子として導入した。先行研究により暗状態ではLOVドメインがCaspaseの活性を抑制する一方、光照射下ではLOVドメインのC末端ヘリックスが壊れることで抑制が解け、アポトーシスが開始されると報告されている。本課題ではこの光誘導法を利用して、分光測定により関連因子間の連鎖反応を分子レベルで捉えることを目的とした。 まず光制御の時間分解能を決定するために、本課題で使用したAvena sativa由来のLOVドメインの光反応測定を行った。その結果、C末端ヘリックスの崩壊反応が200マイクロ秒の時定数で起こることがわかった。次にCaspase-7にLOVドメインをつなげた試料を測定したところ、ヘリックス崩壊反応の時定数は400マイクロ秒であることがわかった。ヘリックス崩壊過程の速度は若干遅くなったものの、反応機構や反応収率には影響がないことを確かめた。 人工タンパク質の酵素活性を調べるために、二種類の蛍光タンパク質をCaspase-7の認識配列であるDEVDでつなげた基質タンパク質を作製した。ここにCaspase-7の野生株を加えたところ、確かに酵素活性により分解反応が促進されることをFRET効率の減少として捉えることに成功した。次に、LOVドメインを付加した試料を用いて活性測定を行ったところ、野生株と同様の活性が暗状態・明状態で観測された。これはLOVドメインによる活性制御能が低いことを示す結果である。実際に培養細胞を用いて先行研究を再現しようとしたが、光照射の有無に関わらず細胞死が誘導される結果が得られており、先行研究との整合性がとれていない。以上から、本年度は測定系の確立を達成したものの、細胞死の光誘導は実現できておらず、現在新しい分子設計タンパク質を作製中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アポトーシス関連因子は高濃度発現環境では自己分解による活性化を起こしてしまい、これによりLOVドメインとCaspaseをつなぐ領域を切断してしまうことがわかった。これはLOVドメインによる活性制御機構が失われ、反応検出や酵素活性測定において大きな問題となるため、我々はCaspaseの活性化に必須な反応である分子内切断反応を任意に行えるシステムを立ち上げた。具体的には市販のproteaseの認識配列を切断サイトに挿入することで自己分解を抑制し、タンパク質精製後にprotease処理を行った。こうして目的のLOV-Caspaseのみを得ることに成功し、またこのように人為的に活性化されたCaspaseも、天然試料と同等の活性を持つことを確かめた。 測定法として過渡回折格子法、過渡吸収法、CD法、SEC法を組み合わせることで、光励起後の発色団の反応やタンパク質部分の構造変化、分子間反応など分子機構の理解に必要な情報を得られる系を立ち上げた。またFRET効率の変化も単一光子計数法を用いることで、低濃度の試料であっても高感度に酵素活性を定量することを確かめた。試料調整系・測定系の確立が達成されたが、Caspaseの光制御能について、期待していた結果は得られなかったため、進捗状況は当初の計画よりやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
試料調整系や反応・酵素活性測定系は立ち上げたため、今後は活性化に必要な測定条件の検討および分子設計の見直しを行う。細胞中は様々な分子で混み合った環境(クラウディング環境)であるため、タンパク質の振る舞いも希薄バッファー中とは異なることが予想される。そこで、クラウディング環境を擬似的に構築し、その中でのLOV-Caspaseの振る舞いを調べる。クラウディング剤として多糖やタンパク質を用い、暗状態と明状態における活性のON・OFFが顕著に観測される条件を探す。 またこれまでの測定により暗状態における活性抑制の程度が低いことがわかったため、より抑制の強い分子設計を行う。例えば、LOVドメインに加えて、活性サイトに選択的に結合し、活性を阻害する配列を挿入する。暗状態では活性の阻害が起こる一方、光でLOVドメインが反応した際にはC末端ヘリックスの崩壊反応を利用して、この抑制が解かれるという分子設計を行う。他にも光で開裂する分子を重要箇所へ挿入し、分子内切断反応を光で行うという分子設計も計画している。 既に酵素活性を短時間でモニター可能な系を有しているため、様々な分子設計の試行が可能であり、最適な光制御能の獲得に努める。これを達成でき次第、下流分子も含んだ系で反応測定を行い、分子間反応の連鎖を時間分解検出し、信号伝達機構の解明を目指す。
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