2019 Fiscal Year Annual Research Report
オルガノドライブラリーの構築による消化器疾患形質の統合的理解
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17H06176
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 俊朗 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (70365245)
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Project Period (FY) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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Keywords | オルガノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,腫瘍疾患などのゲノム・エピゲノム異常を網羅的に解析できるようになったが,ヒト組織の生物的形質変化を解析するアプローチが欠如している.我々は,オルガノイド技術をヒト消化器疾患組織に応用し,下記の3つの課題に取り組んでいる. (1)消化器疾患オルガノイドライブラリーの構築:これまでに大腸腫瘍(Cell Stem Cell 2016,Nature 2020),膵がん(Cell Stem Cell 2018),胃がん(Cell 2018)のオルガノイドライブラリーを構築し,その分子遺伝学的な多階層データの取得を行っている.さらに難治性疾患や希少疾患を優先的に収集し,多階層データとオルガノイドをバイオバンクすることで,多様な医薬生物学研究の有用なリソースの提供を目指す. (2)ゲノム編集システムによるGenotype-Phenotype解析系の確立:ゲノム編集技術をオルガノイドに応用し,遺伝学的変化の再構築とその形質変化のプロスペクティブな実験医学的検証を行っている(Nature 2017,Cell 2018,Cell Stem Cell 2018).複雑な遺伝子変化の多様性を含む疾患上皮と異なり,疾患を特徴づける遺伝子変化を抽出・再構築し,疾患発症メカニズムの解明のみならず,創薬スクリーニングによる新規治療法の開発も視野に入れる. (3)薬剤感受性形質の多次元的理解と予測アルゴリズムの創出:ゲノム異常と変容した遺伝子ネットワークから薬剤代謝やターゲット分子のシグナル変化を包括的に理解する研究システムを構築中である.ヒトがん幹細胞のLGR5を用いた可視化と標的治療など,臨床腫瘍の特性を保持した疾患オルガノイドと化合物による変化を多次元データとして取得し,生成された多階層データの解析により,治療薬の効果発現に寄与する遺伝子変異・変化の網羅的な抽出をすすめている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も臨床サンプルからのオルガノイドの樹立,包括的なゲノム解析を継続した.また,連携機関の拡大により効率的なサンプル収集が可能となり,国際的な競争力の向上,国内外の疾患オルガノイドの需要に応える環境整備につながった. 潰瘍性大腸炎患者より炎症大腸上皮オルガノイドの樹立と全エキソン解析を行った.腸管生検組織は多数の幹細胞クローンを含むため,非腫瘍組織の体性変異解析が困難だったが,単一クローンの解析により潰瘍性大腸炎上皮に特徴的な体性遺伝子変異が明らかになった.それは一貫して潰瘍性大腸炎粘膜の炎症に寄与するIL-17と関連する遺伝子(NFKBIZ, PIGR, TRAF3IP2, ZC3H12A)であることがわかり,病態メカニズムの解明につながった(Nanki et al. Nature 2020).また,原発性硬化性胆管炎患者の腸内細菌を用いた大腸上皮への病理作用について大腸上皮モノレイヤー培養と腸内細菌共培養システムで解析を行い,腸管粘膜障害の病態機序の解明に貢献した(Nakamoto et al. Nature Microbiology 2019).さらに改良した培養システムも報告している(Sasaki et al. Gastroenterology in press)。 CRISPR-Cas9の標的配列によって一部の大腸腫瘍に認められるRSPO2/3融合遺伝子やBRAF融合遺伝子の染色体再構成に成功した.こうして得られた染色体改変オルガノイドをマウス大腸に同所性異種移植することにより,ヒトの臨床内視鏡学,病理学所見を模倣する大腸腫瘍像を示すことを確認した(Kawasaki et al. Gastroenterology 2020).オルガノイドに対する抗がん剤のHigh Throughput screening解析もすすめている.このように,研究は順調に経過している.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き,臨床検体由来サンプルからのオルガノイド樹立を継続し,バイオバンクとしての機能の拡充を行う.大腸,胃,膵臓に続き,希少がんや他の消化器がんの発症メカニズムの解明を目指し,包括的な分子解析,Genotype-Phenotype解析をすすめる. また,Genotype-Phenotypeデータに基づき,オルガノイドへのゲノム編集技術を用いて,プロスペクティブな検証を行う.遺伝子改変オルガノイドの作成とシステム解析を行い,不足する疾患因子の同定と追加遺伝子改変を行う解析サイクルの繰り返しにより,精緻な疾患組織のゲノム異常の再現を目指す.異種移植実験によるin vivo形質との相関性を確認し,堅牢なデータ構築を推進する.さらにゲノム編集ノックインレポーターを駆使した疾患形質の可視化を目指す. また,前年度までに確立してきたHigh Throughput Screeningを最適化し,その薬剤感受性の定量化とシステム解析データとの統合解析を行う.新しいゲノム情報と感受性薬剤の組み合わせを見出し,臨床の化学療法感受性を予測可能な精度の個別化医療応用プラットフォームの確立を目指す.
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Somatic inflammatory gene mutations in human ulcerative colitis epithelium.2020
Author(s)
Nanki K, Fujii M,Shimokawa M, Matano M, Nishikori S, Date S, Takano A, Toshimitsu K, Ohta Y, Takahashi S, Sugimoto S, Ishimaru K, Kawasaki K, Nagai Y, Ishii R, Yoshida K, Sasaki N, Hibi T, Ishihara S, Kanai T, *Sato T.
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Journal Title
Nature.
Volume: 577
Pages: 254-259
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Gut pathobionts underlie intestinal barrier dysfunction and liver T helper 17 cell immune response in primary sclerosing cholangitis.2019
Author(s)
Nakamoto N, Sasaki N, Aoki R, Miyamoto K, Suda W, Teratani T, Suzuki T, Koda Y, Chu PS, Taniki N, Yamaguchi A, Kanamori M, Kamada N, Hattori M, Ashida H, Sakamoto M, Atarashi K, Narushima S, Yoshimura A, Honda K, *Sato T, *Kanai T.
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Journal Title
Nature Microbiology.
Volume: 4
Pages: 492-503
DOI
Peer Reviewed
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