2017 Fiscal Year Annual Research Report
運動部活動における「指導者言説」に関する歴史社会学的研究
Project/Area Number |
17H06539
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
下竹 亮志 筑波大学, 体育系, 特任助教 (70801299)
|
Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
|
Keywords | 運動部活動 / 規律 / 自主性 / 指導者言説 / 根性論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、運動部活動における「指導者言説」の分析を行うことを目的としている。具体的には、指導者らが著した自伝、評伝を資料としながら運動部活動における「教育的価値」として議論の対立軸となってきた「規律」と「自主性」の関係を読み解き、その二項対立的な把握の仕方を乗り越えようとする試みである。 平成29年度は、若干の研究計画の変更を行った。本研究が対象とする「指導者言説」が初めて現れるのは1975年であるが、運動部活動に限らないスポーツ指導者の言説はそれ以前にも認められるからである。それは、1964年東京オリンピック前後の大松博文や八田一郎といった指導者が起源とされる根性論の言説である。本年度は運動部活動における「指導者言説」を分析する足がかりとして、その前段階の時期においてスポーツ指導者の言説を分析した。その結果、現在「スポーツ根性論」と名指されている意味が、実は当時のスポーツ界固有の論理から生み出されたのではなく、教育界、経済界といった他領域との重層的な関係の中で生み出された可能性が示唆された。これは、現在の「スポーツ根性論」の起源を64年前後のスポーツ界に見出そうとするこれまでの研究の成果とは一線を画する分析である。 本年度に分析した根性論の言説とは、本研究の語彙で言い換えれば「規律」に関する言説である。平成30年度は、運動部活動において、そうした「規律」の言説が「自主性」の言説との関係の中でどのような変容が起こったのかについて分析を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初運動部活動における「指導者言説」にのみ焦点を当てる予定であった。しかし、運動部活動に限らない「指導者言説」がその前の時期に存在しているため、その分析を行うことは運動部活動における「指導者言説」の分析にも有益であると判断し、研究計画に若干の変更を行った。1964年前後の根性論を分析したその成果は、本年7月に青弓社から出版予定の『1964年東京オリンピックは何を生んだのか』の第4章として掲載される予定である。 このように、当初の予定にはなかった分析を行ったものの、運動部活動における「指導者言説」の分析枠組みの構築についても同時並行的に行った。この枠組は、ミシェル・フーコーの「統治の技法」の視座と、教育言説への歴史的アプローチの議論に学び、これまで運動部活動の「教育的価値」として捉えられてきた「規律」と「自主性」を生徒の振る舞いを導くための「教育的技法」として捉え直そうとするものである。また、この分析枠組みの構築とともに、1970年代半ばから1980年代の「指導者言説」を読み解き、分析を行った。これらの成果を日本スポーツ社会学会が発行する『スポーツ社会学研究』に投稿する予定であり、論文自体もほぼ完成している状態である。 このように、当初の計画では分析枠組みの構築及び、1980年代までの「指導者言説」の分析が昨年度の目標であったため、研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在、投稿準備中の論文においては、1970年代半ばから1980年代の「指導者言説」を取り扱っている。今後は、その次の時期、(1)1990年代、(2)2000年以降の分析を進めていきたいと考えている。その際、本研究は膨大な資料を読み解く必要性があることから、研究の進展はいかにそれらと向き合う時間を確保するかにかかっている。そのため、資料を読み解く時間を可能な限り確保していくつもりである。その際には、大学院生などのアルバイトを確保しつつ、資料の整理などを合理的かつ効率的に行っていきたいと考えている。 また、本研究の性格上、基本的には研究資料との格闘が主な作業となってしまいがちであり、他の研究者らとの関わりが薄くなってしまう傾向があることを自覚している。そのため、今年度は特に「スポーツ社会学」や「教育社会学」の研究者のところに自ら出向き、積極的に助言等を求めていきたいと考えている。 最後に、上記(1)及び(2)の時期の分析を、日本体育学会や日本スポーツ社会学会等で発表し、それぞれが発行する『体育学研究』、『スポーツ社会学研究』といった雑誌に投稿し、具体的な成果を論文として形にしていこうと考えている。
|
Remarks |
スポーツ根性論について、以下の研究会で発表した。 「根性論の系譜学―64年東京オリンピックはスポーツ根性論を生んだのか?」、1964年東京オリンピック研究会、2017年12月27日、順天堂大学御茶ノ水キャンパス
|